連載2回目
事業所設立は生きていく自分自身のため
2021年07月09日公開
Hidenori Murashita
文/岩岡美咲 : 写真/谷川嘉啓
ALS・富山県富山市在住|村下秀則(むらしたひでのり)
1987年2月23日生まれ。2017年8月にALS(筋萎縮性側索硬化症)と確定診断を受ける。2019年4月に(株)ALS Relationを設立し、代表取締役となる。2020年3月に一般社団法人わをんの理事に就任。富山市内で24時間介助を受けながら、愛犬(スモモ)と一人暮らしをしている。
”Relation” 介助者、支援者、家族との関係性
――ここから事業所設立に向けてのことをお聞きします。最初に、ALS Relationという名前の由来を教えてもらえますか?
村下:名前の由来は、私の病名と、関係性という意味があります。”Relation”には介助者との関係、支援者との関係、家族との関係、この3つを込めました。私がALSになって、その歩んだ道の中での関係性が出てきた。この関係性がないと成り立っていないので、それを忘れないためにこの名前を付けました。
――事業所設立に向けて、どのように進めたかを教えてください。
村下:平成31年4月にALS Relationを設立し、求人を自分でかけられるようになりました。そして、令和元年8月に自薦サポートセンターを設立しました。地域加算(※4)というのがあり、市役所に問い合わせをし、一人暮らしをするタイミングで地域加算が得られるところに移り住みました。
――事業所を設立したのは、一人暮らしをする前ですか?
村下:はい、そうです。一人暮らしをするタイミングで事務所を立ち上げて移動しました。
――事業所設立に向けてと一人暮らしに移るタイミングで、サポートをしてくれた人は家族以外でいたのですか?
村下:設立に関しては、ヘルパーとやりました。責任者が必要なので、既存の事業所さんから関係がすごく友好的だった今のサ責(サービス提供責任者)は移籍しました。私のやってきたことをずっと見てきた、私にそれなりの実績があって、相手も賛同してくれたと思います。だから私がどんなピンチでも、誰かが助けてくれました。その中でも今のサ責は、利用者を一番に考えてくれる人でした。夜遅い時間、ほかの事業所は断るような時間でも毎日介助に来てくれました。だから「この人だったら任せられる」と思いました。
事業所や人が増える難しさ
――現在の村下さんの介助者は、全員ご自身の会社の方ですか?ほかの事業所の利用はありますか?
村下:ありません。なぜなら売上が減るので。介助者の給料を高くするために、それは絶対にしない。
――従業員、介助者のことも第一に考えられているのですね。
村下:それはありますけど、ほかの事業所が入ることによって足並みがそろわなくなる。だから相当なことがないと、ほかの人はいらない。
――確かに複数事業所があることで対応の仕方は変わってきますね。でも事業所を立ち上げたとき、ほかの事業所が入ることで安心感もあるのではと思いましたが。
村下:事業所をやっていて、そういう考え方だと事業所はうまくいかない。それは腹をくくってないので。以前、介助者不足で県指定訪問介護事業所に問い合わせました。重度訪問介護指定一覧には掲載されていても重度訪問介護をやっていないところもありました。呼吸器を着けていることや長時間対応ができずに断られた経験もあります。私はこれがもしだめだったら施設に行くことは覚悟してます。
――他事業所が入ることで、その事業所の介助者への指示がしにくくなって、ヘルパーの足並みがそろわず、介助現場に不都合が生じることもありそうですね。時給の違いも生じてモチベーションに差がでてくることもあるかもしれません。生活の安定や「足並みをそろえて」は、生きていく上で重要で、それが長い生活の中で自分のためになるのだと聞いていて感じました。
現在の介助時間(1457時間)の支給を受けるために行政と交渉したときは、どういうことを伝えて今に至ったのかを教えてください。
村下:私は、障がい者運動の先頭に立っている患者ではありませんし、大都市にも住んでいません。私が一番最初にしたことは「自分をプレゼン」(※5)後、世の中に名前と顔を売り、新聞やテレビに沢山映り半年で講演を12回以上し、世間の人や障害福祉課の担当者に私を認識してもらうようにしました。行政との交渉は希望する支給量は毎回得られて、重度訪問介護利用から2年で1457時間の支給決定を受けることができました。気切をしたのに1488時間の支給決定が下りず、1457時間の交渉の際、前回下りなかった理由を確認してもあやふやな回答でした。
――望んだ支給時間数が出なかったハッキリとした理由は聞かせてもらえなかったと。
村下:そうです(笑)。本当だったら気切したときに1457時間の支給決定を下りるべきだった。だけど出なかったです。その理由はわからない(笑)。
――事務所設立を考えてから、ここはちょっと手こずったとか、うまくいかなかったという経験はありましたか?
村下:ないです。
――すごいですね。今現在の生活に対して不満や改善したいところがありますか?
村下:特にはないですけど、ヘルパーの教育に関しては、人が増えると難しくなってなかなか統率がとれなくなってきています。それは随時厳しく見てかないといけないと思います。
――人が増えると、足並みをそろえるのは難しくなってくるのですか?
村下:そうですね。人が増えればいろんな意見があるし、いろんな性格の方がいます。そこは、人を見ながらやらないといけないかもしれないです。接し方を間違えると辞めていく原因になるので、それを気をつけています。
一緒に考え、人を育てる
――会社関係なく個人的な日常生活で、介助者との付き合い方で気にかけていることはありますか?どの部分を妥協して、どの部分はゆずらないというのはありますか?
村下:介助をしてもらうときは、「よろしくお願いします」「ありがとうございます」を言うように心がけています。また、笑顔で対応するように心がけています。人は物ではないので、言いかたが悪いとすぐに辞めていってしまいます。間違っているときは間違っていることを伝え、何がだめなのか一緒に考えるようにしています。
――日常生活で介助者に期待しているところや、期待する役割はありますか?
村下:その人に合った仕事分担をしています。指導が上手い人、通訳に長けている人、まわりをうまくまとめられる人などです。
――介助者に合った、長所になる部分を期待して任せるのですね?
村下:もちろんそれもありますけど、その人にだけ同じことをやらせると、ほかの人はその人が担当だと勘違いするから、最近はあまり人を決めないでやるようにしています。
――「いろんな介助者がいろんなことをできるようになる」というのは理想ですが。慣れないことをしてもらうときにストレスを感じたりしますか?
村下:もちろんあります。ですが、支給量が多くなって人が増えれば、そういうことを言ってはいられないです。人を育てていかないといけないです。だから時間はかかってもやってもらうように最近は心がけています。
天畠:サ責(※6)にはどういった役割を担わせていますか?
村下:サ責には請求業務、監査があるときに必要な書類の準備ですとか、あとは知識があるので助言をヘルパーにしてもらう。私とヘルパーがけんかしているときに仲介に入ってもらうようにしてます。
天畠:ヘルパーとのけんかというのは、どんなけんかをするんですか?
村下:些細なことから、けんかになることが多いです。でも意外にけんかは大事だったりするかもしれないです。いつも言えないことも聞けますし、普段から話すようにしてても、あまり出ない部分もあります。だからある程度腹を割って話すときが必要なのかもしれないです。
――村下さんの介助者さんたちは、女性も男性もいるのですか?
村下:あくまで私の意見ですが・・私は介助者の特性として、女性のほうが細かい介助ができると考えています。だから私は異性介助を望んでます。現在はヘルパーの9割は女性です。1人しか男性はいません。
――現在の村下さんの生活では、介助者は十分足りていますか?
村下:あと1人欲しいですね。
自分がない介助者はいなくなる?
――日常生活で、介助者のことで気になることはその場ですぐ伝えますか?
村下:場合や、その度合いにもよります。だから少し様子を見るときもありますし、すぐに伝えるときもあります。すぐに伝えるときは伝え方が大事で、まっすぐ言ったほうがいいのか、少し遠回しで言ったほうがいいのか、その人に合わせて考えてます。
――介助者から村下さんに対して何か言われること、「ここをこうしてほしい」など言われた経験はありますか?
村下:あります。しょっちゅう怒られます(笑)。
――(笑)
村下:けっこう私のところのヘルパーは、はっきり伝えてきます。それで文句を言われることもあります。でもそれは話し合って、解決してると思います。
――お互いの気持ちを言葉で伝えて確認できるのは、もやもやする気持ちやストレスを溜めずに生活できることにもつながるのでしょうか?
村下:そうかもしれないですけど、相当な時間と力を使うので、すごく面倒くさいです。
――(笑)そこに力を注ぐことにもなるのですね。
村下:はい。
――介助者はどういう人が長続きして、どういう人が続かないと思いますか?
村下:私が思うに愛想が良すぎる人、あとは人に合わせすぎる人はまあ介助者には向かないし、長続きしないと思います。
――人に合わせすぎるというのは、村下さんにですか?
村下:ほかのヘルパーさんにです。
――それはどういう場面で感じましたか?
村下:そういうふうな人はヘルパー同士で話していても会話が薄いから、浅くしか接しようとしない。だから、そういう人は自然といなくなる。
――村下さんの会社の求人募集は、富山県の介護職の仕事では時給が高いかと思います。そうなると、お金で応募してくる人も多いと思いますが、その点どうなのでしょうか。
村下:両方いていいと思います。それは、私もボランティアで介助をしてもらおうと思ってません。なぜならボランティアで介助をする人は責任がないから。なのでサービスの質も悪いと思います。だからお金を支払う代わりに、しっかりとしたサービスを受けることが普通だと思います。だからそういう人もいてもいいと思うし、利用者優先という考えかたでお金を支払う上では、まあそういう気持ちがあってもいいと思う、あっていい人もいていいと思います。それは別にあまり気にしてないです。
――介助者によって話すことを変えたりとか、「この人にはここまで話すけど、もう一人の人には話さない」などありますか?
村下:あります。サ責には特に、介助以外の仕事も預けているので、介助者ごとに話す内容に差が出てくるのは仕方ないですね。具体的には、自薦勉強会や交流会に出かける際の同行、事業所設立のための富山県への申請、現在の日々の事務作業に至るまで、今のサ責が担ってくれています。
今のサ責は「利用者が一番大事」と考えてくれる人です。私が「将来、事業所やる」と話したときも、話を半分聞く人、ばかにしていく人がいる中で、真剣に聞いてくれました。そのような人なので、私はサ責に特に信頼を置いています。他の介助者と話す内容が異なってくるのはしょうがないです。
注釈
4. 地域区分について https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000566688.pdf
5. 村下秀則 「私とALSの物語り」https://presen0617.jimdofree.com/
6. サービス提供責任者
プロフィール
ALS・富山県富山市在住|村下秀則(むらしたひでのり)
1987年2月23日生まれ。2017年8月にALS(筋萎縮性側索硬化症)と確定診断を受ける。2019年4月に(株)ALS Relationを設立し、代表取締役となる。2020年3月に一般社団法人わをんの理事に就任。富山市内で24時間介助を受けながら、愛犬(スモモ)と一人暮らしをしている。趣味は車。
文/岩岡美咲
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