あなたの語りには、価値がある。/ 当事者の語りプロジェクト

連載3回目

ピンチの状況の人は腹をくくれる

Hidenori Murashita

文/岩岡美咲 : 写真/谷川嘉啓

ALS・富山県富山市在住|村下秀則(むらしたひでのり)

1987年2月23日生まれ。2017年8月にALS(筋萎縮性側索硬化症)と確定診断を受ける。2019年4月に(株)ALS Relationを設立し、代表取締役となる。2020年3月に一般社団法人わをんの理事に就任。富山市内で24時間介助を受けながら、愛犬(スモモ)と一人暮らしをしている。

目次

会社として?個人として?の介助関係

――ここから会社のことをお聞きしたいのですが、(株)ALS Relationでの村下さんのお仕事や役割を教えてください。

村下:そうですね。ヘルパーの教育や事務作業です。

――現在の会社のスタッフや介助者は何人いますか?

村下:正規雇用のヘルパーさんが7名とアルバイトさんが1名の、合計8名です。

――制度によって単価が違ったり、そういう部分を知る機会は少ないと思います。村下さんは知識として身につける機会があったのでしょうか?

村下:事業所をやりたいのであれば、必ずしないといけない。それによって売上が大きく違う。厚労省の重度訪問介護の料金一覧を見たら、加算がいくつか書いてあります。すべての加算を摂った場合を合計すると、単価に50パーセントぐらい加算がなってくる。単純に料金表を見ただけです。あとは時間数に応じて入ってくる加算のお金も変わるので、何とも言えないですね。

――それが職員に給与として出す原資となるのですね。だからこそ、村下さんの会社は富山県の介護職の仕事では時給が高いのだと思いました。しっかり自分から調べて、知識を得ていかなければなりませんね。村下さんが経営者としてスタッフと向き合うときに気を付けていることはありますか?

村下:介助者とヘルパーの関係が悪くならいように怒らず、理屈的に問いかけるように話してます。これは会社の代表としてとか利用者だからとか関係なく、最近はそうするようにしています。たくさん介助者と文句を言い合って最近は怒ることにも疲れてきたし、そんなことに体力を使うのであれば、そのあとどういう対策をしなきゃいけないのかヘルパーと話し合うことに優先しています。

天畠:利用者とヘルパーの関係という話で合ってますか?

村下:それもそうですが、上司と部下の関係も同じと考えています。当事者事業所はこの二つが絶対に、常につきまとってる。天畠さんも上司と部下の関係、ヘルパーと介助者との関係で混在することありませんか? 私はヘルパーから「これは会社として言ってるんですか? 個人として言ってるのですか?」と聞かれることがたまにあります。

天畠:私はあまり言われたことはないですね。会社のスタッフは一押し商品としてのわたしを大切にしてくれています。わたしが売れてるうちはいいですが、いつか私に魅力がなくなって売れなくなったらと思うと少し怖い気もします。

――事業所経営をしている中で大変なことはありますか? 逆にやってよかったと思ったことはありますか?

村下:人材の確保、教育、事務作業が大変です。やってよかったことは、安定して慣れた介助者が入ってくれることですかね。

ピンチの状況からやりきる

――今後について、村下さんがしてみたいことはありますか?

村下:自薦登録のみを請け負う事業所の設立、自薦の普及です。

天畠:もう少し教えてください。

村下:今は私の加算が邪魔して、新しい人を雇うのを制限されたりしてます(補足:加算を取るためには、実務者研修以上の資格を持つ職員が50%以上サービス提供していいないといけないため、実務者研修を持ってない者を新規に雇うと、50%を下回り、加算の対象外となる可能性ある)。だから加算にとらわれない事業所(自薦ヘルパー専用の事業所)が必要だとずっと考えています。これは当事者事業所でなくても同じことで、天畠さんのところでも起こりうることです。だからそこを無視した事業所が必要だと考えております。ですが、人を集めることは難しいです。だから叶わないかもしれないです(笑)。

天畠:特定事業所加算(※7 )のことですね。

村下:はい。「実務者研修以上が50パーセント」という規定もあります。だから、いろいろそういうことを無視した事業所が必要になるかもしれないです。

――今、富山で自薦ヘルパーを利用している方はまわりにいるのですか?

村下:今富山では、私を含めて3名います。

――自薦ヘルパーを利用することは、どういうメリットがあると思いますか?

村下:行きたいところに行けて、好きなときに好きなものを食べれる。ですがそれと同じくらい自己責任も伴うから、そういうふうに自分で覚悟を決めれる人は少ない。だから今まで何人かの人と会ってきたけど、覚悟ある人はいなかったです。

――やりたい気持ちを持つ人はたくさんいるかも知れないけど、そこにちゃんと自分が覚悟や責任を持ってやることが、ハードルになる部分もあると思います。どうやったら乗り越えて自薦ヘルパーを利用していけると思いますか?

村下:私は人と考えかたが違って、「その人がどれだけピンチの状況にいるか」だと思っています。そういう人は腹をくくれる。私がそうだったからです。私は誰でも助けない。そういうことは一般の事業所がやればいいです。だから私は本当に困っている人を支援したい。そういう人は会ったら雰囲気や目が違うと思います。

――村下さんは(株)Dai-job highで自薦ヘルパーを利用したところから、事務所設立までのスピードが速かったですね。その「やらなくちゃ」という覚悟が行動につながったのですか?

村下:そうですね。これができなかったら私は施設に行くことになっていたので、だからやるしかなかったです。

やりきることで選択肢が広がる

――自薦ヘルパーを利用したい、事務所を設立したい、自立生活したいと思っている方へメッセージを送るとしたら、どういう言葉がけをされますか?

村下:自薦利用も当事者事業所運営も道はすごく険しいです。ですがやりきることができれば、いろんな選択肢の道ができます。多くの選択肢を見つけてほしいです。がんばってください。

――わをんの理事としても、天畠さんと一緒に進んでこられたと思います。わをんとして今後どういうことに目を向けていきたいですか?

村下:そうですね。天畠さんはいろんな知識を持ってらっしゃるから、それを生かして、私が自薦普及をしながら知恵を貸してもらいたいし、あとは天畠さんには私を拾ってくれた恩があるから、それを返していきたいと思います。

――今わをんでは、地域のキーパーソンを育てるというのがプロジェクトの一つでもあると思います。しかし、地方に天畠さんのような方がいない現実があります。そんな中で村下さんは事務所を設立されて、一緒にやってくれる人たちを巻き込む力があるように思いました。

最後に、改めて当事者事業所設立に興味を持っている方にメッセージをお願いします。

村下:やっぱり現実を見てもらいたいです。支給量が24時間支給されていたとしても、そのヘルパーたちを守っていくことが難しい状況にあるとことは間違いなくて、どれだけ当事者事業所が大変なのかを理解してほしい。その中で本当にやりたいのか、もう一回見つめ直してもらいたいと思います。自薦利用はできる人はたくさんいると思います。ですが当事者事業所設立となると、自薦利用からもっとやりきること、まあ見つめ直してかなきゃいけないこと、あるんじゃないかなと思います。私は突っ走りすぎたので、あまりそんなことを考えてこなかったけど、最近はそういうようなことが必要なんじゃないかなと感じてます。

注釈

7. 質の高い介護サービスを提供している事業所を評価する加算

 

プロフィール

ALS・富山県富山市在住|村下秀則(むらしたひでのり)

1987年2月23日生まれ。2017年8月にALS(筋萎縮性側索硬化症)と確定診断を受ける。2019年4月に(株)ALS Relationを設立し、代表取締役となる。2020年3月に一般社団法人わをんの理事に就任。富山市内で24時間介助を受けながら、愛犬(スモモ)と一人暮らしをしている。趣味は車。

文/岩岡美咲

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