連載2回目
大学進学を機に一人暮らしをスタート。その後、ある芸人さんとの出会いをきっかけにお笑いをはじめ……
2025年07月25日公開
Fuuka Hori
文/油田優衣 : 写真/浅里のぞみ
1995年、北海道生まれ、北海道育ち。脳性まひの当事者|堀楓香(ほりふうか)
地域の学校に通い、2015年に大学に進学。大学進学を機に重度訪問介護を利用しての一人暮らしを始める。講演や執筆活動のほか、コメディエンヌとして活動。趣味は、音楽、映画、怪談ライブ。
【イントロダクション】
大学進学と同時に札幌市で自立生活を始められ、現在は障害当事者としての発信活動やコメディエンヌとして活動されている堀さん。
今回のインタビューでは、自分の言葉を聞いてもらえず辛かったという保育園時代の話から、友人関係や介助者との関係で苦悩した小中学校時代、自分を解放し始めた高校、自立生活を始めた大学時代、コメディエンヌとしての活動をしている現在に至るまでのライフストーリーをじっくりお聞きしました。
そしてインタビューの最後には、自立生活の難しさやしんどさを赤裸々に語ってくださった堀さん。堀さんの話は、希望に満ちたものではありません。しかし、自分の弱さを隠さず私たちの目の前に開示してくれる堀さんの語りからは、「しんどいのはあなただけじゃないよ。しんどいけど、なんとかやっていけるもんだよ」という希望を差し出してくれます。
大学進学を機に一人暮らしをスタート
油田:堀さんはその後、2015年に定時制高校を卒業されて、大学に進学されたと。大学にはもともと行きたいと思ってたんですか?
堀:いえ。私が大学に行っていいのだろうかって思ってました。自分はそんなに勉強ができるわけでもなく、むしろ嫌いだったので、大学に行って何を学べばいいんだろうとか、そもそも学力はついていけるのだろうかっていう悩みがありました。
でも、高校の担任の先生に、「大学は自分の好きな勉強ができるから、自分で選んだ勉強なら意欲がわくんじゃない?」と言われて。その担任の先生には、自分がどんなことに関心があって、どんな大人になりたいかっていうことも話せていて、そしたら、担任の先生が「じゃあ大学行ったらいいんじゃない?」って言ってくれて。それで、行こうと思いました。親も大学には行ってほしかったみたいで。私は「親にお金を出してもらってまで行きたいのか?」と迷ったけど、「行きな」って言ってくれてる親がいるんだったら行ってみようって。
油田:そうなんですね。大学はどこへ?
堀:道内の大学です。登り口さん※2と同じ大学。
油田:あ、そうなんですか?
堀:登り口さんにはすごいお世話になりました。実は住んでいたとこも同じだったみたいで。
油田:ほう?
堀:私は大学に入ってから一人暮らしを始めたんですけど、私が引っ越した先が、登り口さんが大学のときに住んでたところとまったく同じアパートで、「あら!」ってなって(笑)。
油田:それはびっくりですね(笑)。堀さんは、大学進学のタイミングで一人暮らしも始められたんですね。高校のときから一人暮らしをしようと思ってたんですか?
堀:はい。もうずっと家を出ていきたいって。
油田:それはなんで?
堀:なんとなく実家にいたら気がおかしくなりそうだなって思って。家族とほどよい距離感でいたほうがいいなって。それと、実家に自分の部屋がなかったことが大きくて。自分だけの空間がほしかったので、家を出ようと思ってました。
油田:介助を使っての一人暮らしやその準備について、見通しはもっておられたんですか?
堀:見通しは全然なくて、ほんとにどうやっていいかもわかんなかったです。でも振り返ってみると、親がいないときに、ちょこちょこヘルパーさんと外泊する機会があって。
油田:それは高校生のとき?
堀:はい。高校以前からも外泊はしていました。そこでなんとなく、こんな感じになるのかなとは思ってました。
油田:そっか。それでイメージをもてていたんですね。
堀:あと、一人暮らしが始まる前に自立生活センターさっぽろに行って、一人暮らしの方法をいろいろ聞きまくりました。登り口さんにもどうしたらいいか聞いていた気がします。あ、思い出した。登り口さんが、私がリハビリのために行っていた病院で講演会をされていて、そこでお会いしたんです。高校3年のときかな。登り口さんの話を聞いて、私と考え方も似ていて、「あ、こういう人がいるんだな」って思えました。あと、リハビリの先生からも「こうしたほうが楽に動けるんじゃないか」っていうアドバイスをもらったり。みなさんから協力してもらって、一人暮らしが実現した感じです。
油田:堀さんが一人暮らしをされるにあたって、ご家族の反対とかはなかったんですか?
堀:お父さんはやっぱり心配して、最後まで「本当に出ていくの?」って言ってました。私はあっさり「出ていくよ」って言って。お母さんは「出ていきな」って感じ。なんだったら「痛い目合ってみれば」って感じでした。
油田:一人暮らしを始めたときは、何の制度を使ってたんですか?
堀:重度訪問介護です。大学にいるとき以外の時間は全て重度訪問介護で。1日16時間。
油田:時間数を獲得するための交渉はいらなかったんですか?
堀:一人暮らしをするとなって、すぐ540時間もらえた気がする。夜間に呼吸器をしてるので、それで多くもらえて、夜勤も頼んでました。
自薦ヘルパーのやりくりに追われた大学生活
油田:大学時代の話や一人暮らしの話を聞きかせてください。
堀:大学の講義とかレポートもありつつ、自分の生活も整えなきゃいけなくて、けっこう大変だったなって思います。介助者集めに関しても、自分でチラシを配って、介助者を勝ち取りなさいというCILからの仕込みがあって、それもやってました。それに私は当時、札幌市独自のPA(Personal Assistance)※3っていう制度も使って、自分で自薦ヘルパーをやりくりしていました。それらが本当に大変でした。
油田:大学生活をこなしながら、介助者を集めながら、介助者を育てながらみたいな……。
堀:うんそうです。ほんとに大変で。PAの書類も毎月5枚ぐらい書かないといけなかったし。シフトも自分で作らなきゃいけなかった。
油田:それは大変ですね。学業との両立もけっこう大変そう。
堀:本当に大変だったので、途中でもう無理ってなってPAの利用はやめました。大学生になって一人暮らしをしてから、急にやることが増えて、そのときはもう、今日を無事に終わることで精一杯でしたね。「キャンパスライフを楽しむとか、何?」って感じ。1年生は一瞬で終わりました。
油田:そっかー。
堀:でも、大学2年の頃には少し余裕をもてて、大学生活に集中できるようになったかなって思います。
油田:堀さんは大学では何を学んでおられたんですか?
堀:人間科学科っていう学科で、社会福祉士の勉強をしてました。
油田:大学での学びはどうでしたか?
堀:んー、難しいな。正直、あまり学びになったことはないかも……。なんか、大学の先生と喧嘩したりして。でも、今まで経験できなかったことをできたことが学びです。私なりのキャンパスライフを楽しめました。
油田:なぜ?
堀:大学に入るときに、どういう支援が必要か話すんですけど、私1人だけだと、家の鍵を開けられなくて、冬道は車いすが埋まるので、「通学のときにも人がいてほしい」と通学介助を求めたら、ある先生から「その付き添い、本当にいる?」って言われて。その先生の講義を受けたら、「本人の声を聞きましょう」って言ってて。「誰が言っとんねん!」って思いました。
油田:それはなんだかなぁですね。あなたが聞けてないやんって。逆に、大学時代に楽しかったことはありますか?
堀:私の大学では、ノートテイクなどの介助を学生さんにバイトとしてお願いしてました。それで他の学生さんたちとお話する機会もあって、仲良くなったり、後輩とも距離感が縮まったりして。そこでいろんな人と接点がもてたのは楽しかった。
油田:えー、いいですね。
堀:仲良くなった人とご飯に行ったり、ビアガーデンに行ったり。あと、猫の写真の展示会とかに一緒に行って、楽しかったです。
コメディエンヌとして自身の「あるある」ネタを発信
油田:大学卒業後の話を聞かせていただいてもいいですか?
堀:はい。私は就職はしてないんです。というのも、働けないなって感じて。
油田:というと?
堀:大学のときに、社会福祉士を取るための実習があったんですけど、それのときに1ヶ月間、朝9時から夕方5時、6時までの勤務をやったら、そのあと入院してしまって。それで、私は体力的に難しいんだなと知って、就職は考えませんでした。それまでも講演会や原稿執筆の仕事をしていたので、引き続きそういうお仕事をして、たまにお金をいただいてっていう感じで生活してます。あと私は、村本大輔さんっていう芸人さんと出会ったのをきっかけに、コメディエンヌもやってるんです。きっかけは2018年、私が大学生だったときに、この人の感性に興味を持って、たまたま村本さんのライブに行きました。繊細さと鋭さのバランスが興味深く、目が離せないです。
油田:(ネットを検索しながら)あ、村本大輔さんってこの人……? ウーマンラッシュアワーの人だ!
堀:そう! たまたま行ったライブで村本さんに絡まれて。
油田:絡まれて? 堀さんはステージを見てたんですよね?
堀:はい。たぶんライブ中に客席が見えて、村本さんは車いすの女性がいて気になったらしく。「どこから来たの?」から始まって、「なんでライブに来ようって思ったの?」とか、「ふだんどう思って生活してるの?」とか聞かれて。
油田:それはライブ中に?
堀:そう。で、その後、逆出待ちをされて。何事!?と思いました(笑)
油田:逆出待ち!
堀:はい。「村本さんがあなたを待ってます」ってほかのお客さんから言われて、「えっ⁉︎」って。びっくりしました。それからSNSなどでやりとりをするなかで、「あなたおもしろいね」ってなって、村本さんのステージに上がることになり、そこからお笑いを始めたんです。どちらかといえば、こども期の経験があって、お笑いは苦手だったのに、なぜだか今やってます。不思議ですよねー。
油田:すごい! そんなことがあるんですね。ネタはどうやってつくるんですか?
堀:私は、今まで生きてきたなかでの自分の「あるある」をネタにしてます。例えば、高校のときの修学旅行の付き添いの人でおばあちゃんが来たりして、最後はどっちが介助者かわからなくなった、っていうネタとか。
油田:あはは(笑)。へー、村本さんは、そういう話に食いついてくる人なんですね。
堀:そうなんです。こういう話をおもしろがって聞いてくれる方です。どの人も、いち人間として、フィルターや色眼鏡で相手を見てないところも尊敬してます。
油田:障害当事者の経験をお笑いにかえるっていうのはおもしろいですね。
堀:笑いをまじえて伝えたほうが伝わりやすいかなって。
堀:このやばい生活を、「やばくない⁉︎」って、「こんなにやばいけど、やってるよ」みたいな感じで言えるのはけっこうありがたいなって思っていて。この生活って、やっぱりしんどいことやむかつくことがありますよね。私はそれらをネタにして、お客さんが笑ってくれることで昇華できる部分があるので、私にとっては発散の場になってます。
油田:障害のある人の経験を発信するやり方はいろいろあるけど、その一つに、お笑いっていうルートがあるのも素敵ですね。お笑いという形だからこそ、知ってもらえる層もあるでしょうし。
堀:そうなんです。お笑いを通して私たちのことを知ってもらうのもありかなって。
注釈
※1 規定の保育士人数に加えて、保育士が加配される制度。障害児が園での生活を支障なく過ごせるように支援する目的ものもので、保育園か保護者からの申請によって利用できる。自治体によって配置人数に差が出てくるという問題もある。
参考 https://www.hoikunohikidashi.jp/?p=16762874
※2 登り口倫子さんのインタビュー記事(全3回)はこちら。
https://wawon.org/interview/story/1532/
※3 札幌市のパーソナルアシスタント制度については以下を参照。
https://www.city.sapporo.jp/shogaifukushi/jiritsushien/1-4_pa.html
プロフィール
1995年、北海道生まれ、北海道育ち。脳性まひの当事者|堀楓香(ほりふうか)
地域の学校に通い、2015年に大学に進学。大学進学を機に重度訪問介護を利用しての一人暮らしを始める。講演や執筆活動のほか、コメディエンヌとして活動。趣味は、音楽、映画、怪談ライブ。
文/油田優衣
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