連載2回目
「自分で全部できないと、働いたらいけない」という呪縛が解ければ、介助付き就労は当たり前になる
2021年11月26日公開
Mai KAWABATA
文/北地智子 : 写真/中井和味
脳性麻痺・茨城県在住|川端 舞(かわばた まい)
1992年、群馬県生まれ。自力で座って動けるが、ご飯、お風呂、トイレなどの日常生活と外出時には介助者が必要。電動車いす利用。筑波大学卒業、同大学院退学後、ライターの道へ入る。つくば自立生活センターほにゃらメンバー。
誰かと争わなくても、自分の好きな文章で表現することで誰かの役に立てる
小暮:ここからは、就労についてお伺いしていきたいと思います。CILとの出会いがきっかけで大学院を中退されたとのことですが、その出会いがあるまで、大学院を卒業したあとのプランはありましたか。
川端:私の母親は、特に昔は本当に学歴主義で、私が大学時代には「今の世の中、障がい者は大学院を卒業しないと働けない」と言われていました。今度大学院に入ったら、「一般就職は難しいだろうから、大学院の博士課程にいって、先生だったらできるんじゃない」と言われました。私も「大学の先生は悪くはないかな」と思っていました。
小暮:川端さんは大学院を途中でやめられて、現在はライターで働かれていますが、初めてお仕事をしてお給料をもらったときはどのような思いでしたか。
川端:初めてお給料をもらったのは1年半前で、NEWSつくばで、やまゆり園事件についての記事を書いたときです(※4)。基本的にイベントの記事は、翌日には原稿をあげることが求められるのですが、初めてでよくわからず、原稿を書くのが遅くなってしまいました。そのため、ただのイベント報告ではなく、より深く書くようにとデスクから言われ、障がい者の視点で書いてみようと思いました。記事が掲載されると、予想以上に多くの人に読んでいただくことができ、自分でも社会に小さな影響を与えられるかもしれない、と自信がつきました。「誰よりも優秀でないと、障がい者の自分は価値がない」とずっと思っていた私にとって、誰かと争わなくても、自分の好きな文章で表現することで誰かの役に立てること、それがお給料につながるということが本当に嬉しかったです。
小暮:その気持ちはすごくわかります。お給料で、何か欲しいものとか買いましたか。
川端:貯金しています。
小暮:堅実でいいですね!
介助を付けながら、ライターとして働く
篠田:川端さんが1本の記事を仕上げる際、介助者にはどこでどのような指示を出しているのでしょうか。
川端:まず、取材に行く時は介助者と一緒に行き、基本的には私と取材相手は直接話しますが、どうしても伝わらない時は介助者に通訳してもらいます。また、録音もしますが介助者にメモも取ってもらいます。ただ、介助者によって得意不得意があるので、メモを取るのが苦手な介助者の場合は、録音したものを後で聞いて記事にします。記事を書く時には、自分でパソコンを打つこともありますが、長時間だと体が痛くなるので、介助者がいる日中は、私が言ったことを介助者に打ってもらいます。
篠田:記事の構成を考える時、全部自分の頭の中で作ってから、介助者の方にお伝えをするのでしょうか。それともおおまかな構成だけ作ってから、段落の入れ替えなどを介助者と相談しながらパソコンでやったりするのですか。
川端:介助者は私が言ったことを言ったとおりにパソコンに打ってもらうだけで、文章の構成は全部自分で考えます。
――介助者手足論は、基本的には当事者の主体性を守るために黒子に徹することがあると思いますが、指示がないと介助者が動かないという側面もあることについて、川端さん自身はどのように思われていますか。
川端:私は、基本的に私がお願いしたことはその通りにやってもらうことを最初から徹底しています。そうしないと自分の生活を守れないので、手足論の考え方も大切だと思います。
でも、指示がないと介助者が動かないことを徹底的に守ろうとすると、お互いに疲れてしまうと思います。実は私も、CILに関わり介助者を使い始めたころは、全て完璧に指示出しをしようとして生活するだけで疲れてしまったことがありました。そこからは掃除や洗濯などは、こだわりポイントがない限り介助者におまかせしちゃいます。逆に、私から掃除の指示がなくても、介助者が汚れてると思えば、私に確認してもらってから、やってもらうことも多いです。
いろいろな個性のある介助者と付き合うのは面白いです。私の言ったことは基本的にやってもらうけれど、それ以外で介助者自身のことを話してもらうのは嬉しいなと思います。
――私(天畠)も“おまかせ介助”(※5)を実践しているので、とてもよく分かります。ご所属のCILでは、基本的な考え方として介助者手足論を勧めているのでしょうか。
川端:ほにゃら(※6)の中で介助者手足論という言葉はあまり聞かないです。ほにゃらの介助者は、当事者一人ひとりの障がい特性や経験値に合わせながら、その人らしい生活を一緒に作っていけるような支援をしてくれていると思います。時には介助者と当事者が一緒に考えて、問題を解決していく場面もあります。私が介助者を使い始めのころは「介助者にどこまで細かく指示を出すのが、自分に合っているのか、分かってくるといいね」と言われました。
またメンバーとは、今までの「自己決定することが自立」という考え方を、知的障がい者でも当てはまるような自立観にアップデートする必要があるんじゃないかという話になりました。その中でまだ結論は出ていませんが「自分はどんな生活がしたいか、最初から一人で考えたり、上手に周りに伝えられなくても、介助者と一緒に経験するなかで、自分は何が好きなのか、介助者と一緒に探していくのも自立と言えるのではないか」という考え方が、私にはしっくりきています。
その考え方は知的障がいに限らず、例えば、私が店員に話しかけようか悩んでしまう時に、介助者に背中を押してもらって、介助者と一緒に店員に話しかけに行くという経験をすることで、自分にとってどんな介助方法がやりやすいか、介助者と一緒に経験しながら探していくことにも当てはめることができるのではと思っています。
特にまだ経験が浅い障がい者の場合は、介助者の方から「今度これやってみない?」「今度出かけたときは、介助者としてこんな風に振る舞おうと思うんだけど、どうかな?」と、いろいろと提案していくことも必要だと思います。その原則として「何かやるときは、まず本人に、やっていいかどうかを確認する」ことが基本なんだと思います。
――川端さんは介助者にはどんなことを重視しますか。
川端:面接の時に(私の言葉を)聞き取れるかどうかはそんなに重視していません。それよりも、私が話している間はちゃんと私の方を見てくれるか、健常者スタッフと話すのではなくて、私と直接話そうとしてくれているかを大切にしています。
篠田:実際に川端さんが外に出て、いろいろな人と会って自分の姿も見せてお話して、という仕事の仕方というものが、とても大事なものだと思いました。
川端:私は外出時や他の人と話す時には、相手が私の言葉を聞き取れなくて介助者の方を見てしまったとしても、私から介助者に通訳をお願いするまでは介助者は黙ってもらうようにして、できるだけ相手が私と直接話せるようにしています。そうしないと、言語障がいのある人とどうやって話せば良いのか、いつまでたってもわかってもらえないと思うので、時間がかかっても直接話すようにしています。
小暮:川端さんにとって、こういう介助者は良い!と思うポイントはありますか。
川端:私のスピードに合わせてくれるかどうかです。私は話すのが遅いけれど、私が介助者に指示を出す時に、ちゃんと最後まで私の指示を聞いてから動いてもらえるとありがたいです。
小暮:スピード感が似ている人は心地よいですよね。(以前の)事業所から派遣された介助者とCILの介助者、どっちが自分に合っていると思いますか。
川端:やはり今の方が、介助者一人ひとりと関係がつくれて、愛着が湧きます。大学時代はそれぞれの介助者とそんなにコミュニケーションを取れず、介助者の中の1人という認識でした。でも今は介助者を面接し、育てることができるので、「この人だったら私の嫌なことはしない」という信頼感にもつながっています。ですから、今の方が良いと思っています。
働いているのに、お金を払わなくてはいけないおかしさ
小暮:今働いているからこそ気づくことや課題があると思いますが、働き方の理想について教えてください。
川端:今ニュースを書いていて1番おかしいと思うのは、私が取材をすると重度訪問介護は使えない(※7)ので、私が1時間取材をすると介護料として1200円が飛んでいきます。記事1本書くと6000円もらえるので、そのうちの5分の1が飛んでいくことになります。働いているのにお金を払わないといけないのは、どう考えてもおかしいなと思います。
小暮:私もそう思います。2020年10月から、自治体が認めれば、重度訪問介護が仕事中でも使えるという新しい制度(※8)ができましたが、それついてはいかがですか。
川端:2020年のつくば市議会議員選挙と市長選挙にて、私の参加している市民団体で就労支援のことを含めた政策提案書を各立候補者に渡したのをきっかけに、今つくば市でも検討しているようです。今年4月に、ほにゃらで茨城県内のすべての市町村に「こういう制度があるのですが、やる予定はありませんか」と聞いたのですが(※9)、半分くらいは制度自体を知らなかったので、まだまだだと思っています。
小暮:どんなに障がいが重くても働く権利はあるし、その権利は保障されなくてはならないと思います。川端さんはその点についてどう思いますか。
川端:まだ日本では「自分で全部できないと、働いたらいけない」という考え方が強いと思っています。私自身、CILに関わりはじめて驚いたのは、介助者に指示を出してやってもらったことは、指示を出した私がやったことになることです。例えば、みんなのために私が介助者に指示を出してご飯を作ったら、介助者ではなくて私に「ありがとう」と言ってもらえることが新鮮でした。介助者に指示を出してやってもらったことは本人のやったことになるという考え方がもっと広まれば、仕事中に介助を受けることも当たり前のこととして認められるのかなと思います。
小暮:人の考え方も変えていかなくてはならないですよね。
――今の話はとても大事な問題で、私(天畠)も研究テーマにしています(※10)。この社会は能力主義というか、「全部自分でできて一人前」という価値観があって、介助を付けなければ働くことができない重度障がい者は「しょうがないよね」と言われながら排除されてしまう構造になっています。一方で、当事者自身もそのような考え方や価値観を内面化しているから、苦しくなってしまうことがあるのではないでしょうか。でも、川端さんの考えるあり方は、障がいのあるなしに関係なく、いま働くことに辛さを抱えている人たちの“突破口”になりうるかもしれませんね。
普通学校に通う障がい児を応援したい
篠田:川端さんが、これから一人のライターとして、社会にこんなことを伝えていきたいということや抱負についてお聞きします。
川端:まずは、今動いている就労支援事業がつくば市でどうなっていくか、継続的に記事を書いていきたいと思っています。あとは、これからじっくり教育についても取材していけたらと思っています。
――川端さんはインクルーシブ教育に対する深い問題意識をお持ちで、それは学生時代に介助員の方から受けた虐待や学校自体の構造的な問題が原点にあるとのことでした。具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか。
川端:中学時代は障がいのある私が悪いと思っていたのですが、今振り返ると、障がい児が通っているのに、いないかのように振るまう普通学校や、障がい児のことはすべて介助員に任せて、介助員が障がい児との関わりで悩んでも誰にも相談できない体制にも問題があったのではないかと思っています。だから、当時のことを思い出すとつらい気持ちになりますが、一方で誰も当時の介助員だけを責めることはできないとも思っています。
――障がい児と介助員を孤立化させてしまう構造にこそ、社会課題があるのかもしれませんね。
川端:そのような普通学校の構造こそ変え、障がいのない子どもと同じように、障がい児が学校にいる間は学校全体で責任を負う体制を作る必要があると思います。
小暮:最後に、川端さんのこれからの展望をお聞かせください。
川端:やはり、私はインクルーシブ教育に興味があります。深く考えすぎると自分の子ども時代を思い出して嫌になることもあるのですが、障がいのある人が地域で生活するためには子どもの時からインクルーシブ教育が大切だと思っています。同じ興味をもつ当事者と会議をしているので、そのようなつながりも大切にしながら、自分のなかで考えを深めていきたいです。
川端:どんな障がい児でも普通学校で、障がいのない子どもと一緒に育つ権利があります。その権利を保障していくためには、普通学校全体の障がいに対する考え方を変えていかないといけないと思っています。今はまだ、障がい児が普通学校に行くことが良いことなのか自信をもって言えないところもあって、そういう自分が情けないと思うこともあります。でも、教育について考え続けていって、いつか自信をもって「障がい児も普通学校に行くべきだ」と言えるようになり、普通学校に通う障がい児を応援できるような記事を書いたり、活動をしたいです。
篠田:とても楽しみにしています。
小暮:一般企業などで働きたいという重度障がいをもつ子がいたとしても、なかなか介助を受けながら仕事をする、というイメージが世間一般的に想像できないという部分が多いと思うのですが、このようにお話を聞いているとすごく想像しやすくなると思うので、今回は本当に貴重なお話でした。ありがとうございました。
注釈
4. 川端さんが執筆した最初のNEWSつくばの記事はこちら。「障害当事者がつくばで問う–やまゆり園事件で見えてきたものと見えないもの」https://newstsukuba.jp/21995/25/02/
5. “おまかせ介助”とは、重度身体障がい者の意を汲み、読み取りを経由せずに介助者の判断で動く介助技術のこと(天畠大輔,2021,『〈弱さ〉を〈強みに〉――突然複数の障がいをもった僕ができること』岩波新書.)。
6. つくば自立生活センターほにゃらでは、様々なサービスを通じて障がい者の自立生活支援などを行っている。http://www.honyara.jp/
7. 重度訪問介護が就労・通勤に利用できず、同行援護及び行動援護が通勤に利用できないのは、厚生労働省告示第523号(2006年9月29日公布)で「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出を除く」という制限がもうけられているから。
8. 「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」は、市町村が実施主体となる地域生活支援事業のひとつ。厚生労働省は、2019年7月舩後靖彦/木村英子参議院議員の当選をきっかけに「障害者雇用・福祉連携強化プロジェクトチーム」を設置し、かねてより課題であった通勤や職場における支援の検討を開始した。具体的な支援策(2020年10月開始)は、本事業のほか、障害者雇用納付金制度に基づく助成金の拡充策からなる。これは経済活動中の介助サービス利用について、雇用施策と福祉施策を連携させる形で認めた制度である(2020.4.12毎日新聞デジタル)。
9. ほにゃらが所属する「茨城に障害のある人の権利条例をつくる会」(https://ibakentsu.org/)で行った調査。川端さんは約半数の自治体へのヒアリングを担当した。
10. 天畠大輔,2020,「『発話困難な重度身体障がい者』の論文執筆過程の実態――思考主体の切り分け難さと能力の普遍性をめぐる考察」『社会学評論』71(3): 447-65.
プロフィール
脳性麻痺・茨城県在住|川端 舞(かわばた まい)
1992年、群馬県生まれ。自力で座って動けるが、ご飯、お風呂、トイレなどの日常生活と外出時には介助者が必要。電動車いす利用。筑波大学卒業、同大学院退学後、ライターの道へ入る。つくば自立生活センターほにゃらメンバー。趣味は読書、音楽を聴くこと。中学時代、コブクロの曲を聴くときだけがリラックスできる時間で、そこからずっとコブクロのファン。
文/北地智子
この人の記事をもっと読む
この記事をシェアする