あなたの語りには、価値がある。/ 当事者の語りプロジェクト

連載2回目

自分で介助者を育てる―より質の高い生活を目指して

Rice-zhao Jonah

文/山﨑彩恵 : 写真/其田有輝也

先天性ミオパチー・漫画家|ライスチョウ ジョナ(らいすちょう じょな)

アメリカ人の父と中国人の母をもつ。日本生まれ、日本育ちの27歳。過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチーという、進行性の筋疾患の重度身体障がい当事者。2014年、母親と弟とともに、介護者派遣事業所(合)家族舎を立ち上げ、副代表となる。事業所運営の傍ら、プロの漫画家ジョナ☆シェンとして活動し、ギャグマンガでウェブマガジン連載や、クラブイベントの企画・開催も行う。

目次

自分で介助者を育てる――より質の高い生活を目指して

――ジョナさんが当事者事業所(※6)を設立するきっかけはなんですか?

ジョナ:そうですね、会社を立ち上げるまでは、他社の事業所さん何ヶ所かとずっと契約して過ごしてきたんです。それぞれの会社で方針とか、ヘルパーの体制とか、やっぱりそれぞれ千差万別で、差もあって。で、利用者として、それぞれのヘルパーさんたちに指導とか教育をしにくいという状況がありました。やっぱり自分がこうあるべきだと思ったようなことであっても、それがヘルパーの会社の方針と違った場合には、その結果、より質の高い生活を送るための支援を受けることができなかったりするので…より質の高い生活を、支援を受けるためには、自分たちで会社を立ち上げるしかないだろうということで立ち上げました。

――どういったときに支援の質のばらつきとか、うまく指導できないなと感じましたか?

ジョナ:例えばですけど、ヘルパーさんがなにか大きなミスをしたときに、こちらとしてはそれを指導して今後同じようなことがないようにヘルパーさんの意識を改善してもらいたいのが当然なんですけれども、(所属先の)事業所さんとの間に認識のズレとかもあったりしまして。こっちは、これはとんでもないミスだと思っていても、会社側の認識として、どれだけ深刻なことかということに、ちょっとズレがあったりとか、こっち側からちゃんと指導したつもりでも、会社側の方からも指導がしっかり行われていないと、やっぱり根本的なヘルパーさんの意識の改善っていうものはなされない。そういったことがあったので、かなり大変に感じていました。

問題解決はコミュニケーションから
――サービス提供責任者に求められる3つの要件

天畠:事業所のサービス提供責任者(※7)は、どういった方なんですか?

ジョナ:うちの会社に所属しているサ責(サービス提供責任者)に共通して言えることは、やはり技術力が高いということと、問題に対しての理解力が高いっていうことです。例えばなにか問題があがってきたときに、いち早く察知ができることと、どうやったら解決することができるかなと考える力があります。

――当事者事業所を設立するときに、サービス提供責任者にどういう人を置くのか、どういう事業所を目指すのか…というのはとても大事な要素だと以前、代表の天畠からお伺いしたことがあります。ある意味、女房役というか。特に天畠のように重度のコミュニケーション障害の人が、自分の事業所を育てていくときには大事なことだというふうに聞いて「なるほどな」と私たちも思ってたんですけど、ジョナさんは、サービス提供責任者の存在をどんなふうに感じておられますか?

ジョナ:僕は会社の利用者の立場でもあるんですけども、他にも利用者さんはおられるので、やはりサ責には包括して、まとめあげることができる人を置いた方がいいというのが一つです。会社の副代表として、直接他の利用者さんのところ、現場に行って利用者さんの状況を確認するのが難しいので、現場のことをよくわかっている人のが大きいと思います。なので、やはり問題意識が高いこと、それから現場に行く力がある、そしてやはりまとめあげる能力がある、この3つがサ責として必要な能力ではないのでしょうか。

天畠:こういう時のサービス提供責任者の動きは「評価できるな」という場面があれば教えてください。

ジョナ:なにか現場で問題があがってきたとき、サ責が問題を統括して研修会を開催したり、利用者さんに直接聞き取りをしたりします。そういう行動をしっかりとってもらった時は評価しています。ただ、問題解決能力に必要なことの一つとして、ただ現場に行って解決するだけでなく、問題の聞き取りをし、問題のあったヘルパーと直接「対話」する能力も求められるのではないかと考えます。つまり、問題のあったヘルパーとコミュニケーションを取り、「何がいけなかったのか?」ということをヘルパーと対話する中で、理解を深めていく、ということです。ある意味「問題解決能力」というよりは「コミュニケーション力」と言っていいのかもしれませんが、これは実は非常に重要なことであると思います。うちのサ責は、当初は全くコミュニケーションが苦手な人間だったのですが、強制的に(笑)会議やカンファで人前で話す機会を与えていくうちに、今では大勢が参加するカンファでも堂々とその場をまとめ上げることのできる人間になりました。このコミュニケーション力の高さによって問題のあったヘルパーとも平和的に問題を解決していくことができてるのだと思います。改めて色々考えてみると問題の解決って、結局はコミュニケーションから始まるのかもなぁと思った次第です。

――会社で評価のシステムとか指示のシステムを統一して、他のヘルパーにもわかりやすいように伝えているというか。お伺いしていて、そういう対応を心がけているのかなというように感じました。

ジョナ:はい、会社を立ち上げて何年か積み重ねて、できあがってきたシステムでもあるんですが、「こういった場合はこういった対応」というふうにマニュアル化がされてきて、それぞれが問題に対しての連絡ルートというものも、今は確立されてきました。だから、なにか問題があがってきたとしても、あんまりごちゃごちゃ揉めることなくスムーズに解決できる、という強みがうちの会社にはあります。

介助者はビジネスパートナー
――模索した介助者との距離感

油田:あともう一つ、私からお聞きしたいのは、ジョナさんと介助者さんとの関係って、どんなものなのかって。前回の天畠さんと私のインタビューではヘルパーさんは、友達っぽくなることもあるのか、それとも淡々と仕事をするのか、「人によるよね」みたいな話にもなったんですけど。あ、天畠さんからはわりと「友達みたいな感じ」っていう表現もでてたんですけど。ジョナさんと介助者さんとの関係って、どんなふうに表現できるのかお聞きしてみたいです。

ジョナ:僕は一応ビジネスパートナーというふうに思ってます。あんまり友達っぽくなりすぎてしまうと、やはりクレームとかも言いにくくなってしまいますし、かといって距離感がありすぎると、それはそれでなにかやりにくいしやりづらい。なので、ビジネスパートナーという言葉が僕の中ではちょうどぴったりくるかなというふうに思ってます。

油田:ビジネスパートナーとしての解釈は、事業所経営されているからこそかもしれないですけど、おもしろい言葉だなと思いました。

――「ビジネスパートナー」というのは、ずっとそうですか?それとも長年、10年以上悩んできた末にビジネスパートナーがしっくりくるなと感じるのか、いかがですか?

ジョナ:確かに、僕も昔はこう「ヘルパーさんと仲良くなりたい、友達みたいな関係性になりたい」と思ってた時期がありました。でもそうすると、今度はかえって「自分が思ってるような関係性になれてないな」と悩むこともあったので、大人になってからは徐々に考え方も変わってきて、今のようなビジネスパートナーという考え方に至っています。それで、今はストレスなく、うまいことやっていけてるんじゃないかなと思ってます。

――以前は介助者と友達のような関係になりたいと思っていて、でもなかなかなれなかったという話ですが、現在は、理想の関係というのをどういうものだと感じていますか?

ジョナ:正直、理想の関係っていうのが、どういうものなのか今でもわかりませんが、会社(の副代表)と利用者という立場である限りは、さすがに友達というわけにはいかないかなと、今では思います。ただ仲良くなることに越したことはないので、仲良くなって、かつ仕事上に置いてもお互い言いたいことが言える、言い合える仲であることが理想だと思います。

天畠:それってもしかして、ヘルパーと関係性が近くなって、重荷になっていったというような・・・関係がしんどくなっていったというようなことがあったんですか?

ジョナ:重荷だったり、しんどくなったりはなかったかなと思います。ただ先ほど言ったように、すごい難しいですが、障害を抱えている方にとって人間関係っていうものは、やはりヘルパーさんとの関係性が非常に大きな割合を占めていると思うんです。だからこそ、どんどんヘルパーさんと仲良くなりたいというふうに、思いも強くなってくるとは思いますし、ぼくも昔はそうでした。ただ先ほどちょっと言ったように、近づき過ぎるとお互いの気持ちにズレがあるなと感じることもあるので、それで悩むこともありましたし、うまい関係、距離感というものが、一体どれぐらいのものなのを考えることが非常に大事かなと思います。

介助者を見抜き、技術力をつけてもらう

油田:介助者とうまい関係を築くために、具体的にどういう工夫をされているのかも聞きたいんですけど。まずは、ジョナさんが考えるいいヘルパーさん像みたいなのはありますか?

ジョナ:難しいですね。まずはなんと言っても技術力。教えた通りに介助をやっていただけるかどうか。人それぞれ考え方はあるとは思うんですが、信頼性を作るのが先で、介助力は2番目だっていう人もおられれば、僕の場合は利用者さんに負担のない介助はできて、その上で初めて信頼関係は築けるのではないかなと思っています。やはりヘルパーさんがちゃんと介助をしてくれるかどうかは、障害を抱えている方たちにとって死活問題だと思うので、そこが僕にとってはなによりも大事です。前はちゃんと介助を受けることができなくて、変なストレスがあって、そういう状況ではやはりいい関係性は築けないと僕は思います。

油田:ジョナさんがおっしゃる技術力というのは、ちゃんと利用者の言うことを聞いて、教えた通りにやってくれるヘルパーさんということで合ってますか?

ジョナ:はい、合っていると思います。もちろん別に僕が言うことをなんでも聞きなさいと言ってるわけではなくて、いい支援を提供していただける範囲内で、覚えてもらいたいことはちゃんと覚えていただきたいということです。

油田:利用者に負担のない、自分に負担のない介助関係を作ることは、やっぱりなかなかハードルになったりすると思うんですけど。そのために、こんないい工夫があるよとか、こういうことを心がけてるというのがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

ジョナ:それはですね、利用者さん側からしても、ヘルパーさんのことをしっかりと観察をしていることが大切だと思います。ヘルパーさんにも、やっぱりいろんな方がおられるので、みんな同じ教え方ではうまくいかないことがあります。それぞれのヘルパーさんにはそれぞれの覚え方があるので、指導の仕方というものもヘルパーさんによって、変えていかなきゃいけない。このヘルパーさんにはこういう教え方が合ってるんじゃないか、いいんじゃないかを見抜いていく力というものがやはり利用者として、大事だと思います。

油田:そういう見抜いていく力というのはやっぱり、ジョナさんが小学校の頃から介助者を使われてるということが大きいんですか?やっぱり、経験値として貯まっていって、そういう能力がつくもんなんですかね?

ジョナ:確かにそれも大きいとは思います。今までで累計100人以上はヘルパーさんを見てきたと思うので、その中で培われた観察力みたいなものはあるかなと思います。

母親には「かなわない」
――家族で経営するということ

――会社での役割分担についてですが、代表であるお母様が対外的なことも含めて代表業務をやってて、ジョナさんが、事務を主にされているというふうにお伺いしましたが、その辺りについて教えてください。

ジョナ:形的にはうちの母親が代表で、僕が副代表の立場で、業務としては、僕はヘルパーさんへの手技の指導や相談業務、あとは会社での企画の立案と管理をしています。

天畠:お伺いしてる中でお母様だったりとか、家族との関係性のよさ、同じ価値観を持たれているからこそ、会社の業務もご一緒に支障なくやられてるのをとても感じました。一方で障害者家族には、よくある話として、家族、特に母親が生活に介入してくることがありますが、実際、ジョナくんはそういうことがあったりしますか?

ジョナ:親子の衝突はやはりもちろんあります。いくら親子だといっても100パーセント同じ考え方を持っていることはないですし。やはり育ててきた親にとってみれば、子どもはいくつになっても心配なので「ちょっと干渉しすぎなのではないかな」と思うときもあります。ただ、うちの親はとてつもなく強い親なので。めちゃくちゃ強くて困ってます。(介助者と一瞬、笑い合う)僕はもう「かなわないな」と(笑)

天畠:どういうときに「かなわないな」と思いますか?(笑)

ジョナ:常日頃から(笑)なので、僕がうまいこと距離感をとって、衝突が起きないように、なにか言われたら、とりあえず「そうですね、その通りですね」って言っておいたらいいと。実際に言われたことを実行するかどうかはまた別の話ですので。

天畠:距離感。非常に大事ですね・・・では、現状では、家族経営での問題はあまり感じてはいないということでしょうか?

ジョナ:一般的には、意見が対立しやすいのが家族経営の問題点だと思いますが、うちでは今のところ、意見が対立することはほぼ無いです。(もしもあった場合は僕は代表に従いますので…。) ただ、当事者側の僕としては利用者さんの「やりたいこと」を優先させてあげたい気持ちが強いと思いますが、経営者であり親である母としては利用者さんの「命」を優先にして介護方針を考える傾向はあると思います。当然、「やりたいこと」と「命」のバランスを取るのは難しいと思いますので、こうしたところに家族経営の問題が表面化することがあるように思います。

天畠:独立したいという思いを抱いたりはしますか?

ジョナ:僕が独立したいかというと、基本的に僕はイラストや漫画の仕事をなるべく優先したいと思っていて。独立なんかしたら確実に経営のほうに手がとられるので、独立する気は全くありません。

ギャグ漫画で笑いを届けることは僕の人生の目的

――漫画家業務は、一人で全部やっておられるんですか?例えばヘルパーがなにか手伝ったりということもあったりされるんですか?

ジョナ:いや、今は全部一人で描いてます。パソコンとiPadを活用して、自分で描いているので、昔はいろいろ道具を使って描いてたんですけども。今の時代、iPad一つでなんでも、全部できちゃうので、特に手伝いもなく描けています。

――ギャグ漫画を描いている時にはどういった意味を感じて、描かれてるのかっていうことをお伺いしたいです。

ジョナ:はい、ギャグ漫画というものは人を笑わすことができるツールでもありまして、自分が描いたもので人を喜ばせる、笑わせることができるということは、非常にぼくにとっては喜びになってます。なので、そういう人に喜びとか笑いを送ることができるギャグ漫画というものを描くっていうことが、ぼくの人生の中の目的の一つですね。

編集後記

私、天畠大輔がジョナ君と出会ったのは、大阪で開催されたICT機器のイベントの時でした。イベント会場ではジョナ君の漫画が売られており、そのイラストは大変インパクトがあるものでした。私は、本当にこの物静かで礼儀正しい青年が描いたの?と目を疑ったものの、漫画の内容は、シュールでウィットに富んでおり、障がい当事者の目線でしか描けない鋭い視点とリアリティは、読者を引き込むものでした。 重度の障がいをもちながら笑いを追求することが、決して容易ではない事は、私も知っています。それでも、彼に与えられた才能と彼が積み重ねた無限の努力が、その漫画には表れているようでした。 漫画家と事業所経営という二足の草鞋を履くジョナ君の姿に、研究と経営を生業とする私は、自分を重ね、親近感を抱き、このインタビューが実現しました。当事者事業所を運営すること、そして自分の生業を持って生きている姿に勇気を持たれた方も多いのではないでしょうか。彼の生き方に触れたことで、自分自身の夢ややりたいことを諦めずに生きていこうとする当事者が増えることを願っています。(文/天畠大輔)

注釈

6.重度障がい当事者が、自らで立ち上げた介護者派遣事業所のこと。そこで雇った人を自分の介助者にすることで、自薦ヘルパーのように、直接、当事者がヘルパーを指導・教育することが可能となる。但しこの場合、当事者は利用者であると同時に、雇用主として、介助者を管理する、経営者という立場にもなる。その為、利用者と経営者、どちらの側に重きを置くかで、様々な場面において、悩みが生じることがある。

7.当事者事業所を立ち上げるには、当事者と、ともに事業所の運営や事務作業等を担う常勤職員(サービス提供責任者=サ責)が必須となる。

 

プロフィール

先天性ミオパチー・漫画家|ライスチョウ ジョナ

アメリカ人の父と中国人の母をもつ。日本生まれ、日本育ちの27歳。過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチーという、進行性の筋疾患の重度身体障がい当事者。2014年、母親と弟とともに、介護者派遣事業所(合)家族舎を立ち上げ、副代表となる。事業所運営の傍ら、プロの漫画家ジョナ☆シェンとして活動し、ギャグマンガでウェブマガジン連載や、クラブイベントの企画・開催も行う。

京都精華大学マンガ学部卒業。2016 年週刊少年サンデー新世代サンデー賞奨励賞受賞。2018 年 3 月~2019 年 7 月、Web マガジン「ウブマグ 」 http://ubmag.jp/ にて『ジョナのオムニバスショートギャグ漫画』、『ジョニーの燃 えよ裁判』を連載。京都を拠点に、弟のライスチョウ ノア氏と共同で、アーティスティッククラブイベント「CANVAS」の開催も。
趣味は音楽と映画鑑賞。好きな映画は『おおかみこどもの雨と雪』
通信 Twitter @ricezhao1993 、Instagram @jonah_ricezhao

文/山﨑彩恵

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