連載3回目
ぶっちゃけ私は自立生活向いてない。でもやっていけてます
2025年07月29日公開
Fuuka Hori
文/油田優衣 : 写真/浅里のぞみ
1995年、北海道生まれ、北海道育ち。脳性まひの当事者|堀楓香(ほりふうか)
地域の学校に通い、2015年に大学に進学。大学進学を機に重度訪問介護を利用しての一人暮らしを始める。講演や執筆活動のほか、コメディエンヌとして活動。趣味は、音楽、映画、怪談ライブ。
【イントロダクション】
大学進学と同時に札幌市で自立生活を始められ、現在は障害当事者としての発信活動やコメディエンヌとして活動されている堀さん。
今回のインタビューでは、自分の言葉を聞いてもらえず辛かったという保育園時代の話から、友人関係や介助者との関係で苦悩した小中学校時代、自分を解放し始めた高校、自立生活を始めた大学時代、コメディエンヌとしての活動をしている現在に至るまでのライフストーリーをじっくりお聞きしました。
そしてインタビューの最後には、自立生活の難しさやしんどさを赤裸々に語ってくださった堀さん。堀さんの話は、希望に満ちたものではありません。しかし、自分の弱さを隠さず私たちの目の前に開示してくれる堀さんの語りからは、「しんどいのはあなただけじゃないよ。しんどいけど、なんとかやっていけるもんだよ」という希望を差し出してくれます。
介助者とのルール「お互いのことに干渉しない」
堀:前回に、高校時代は楽しかったってお話をしたんですけど、悩みの部分は同じようにあって……。家でのヘルパーさんのことです。みんなヘルパーさんとの関わり方や距離感をどうしてるんだろうって。それを話せる人がまったくいなくて、しんどかったです。
油田:前回、自宅に来るヘルパーとの関係がしんどかったとお話されてましたよね。その状況は高校でも変わらず?
堀:はい、さらに悪化して。その頃には、人格否定までされてました。私が何を言っても否定されてた。例えば、「こないだ学校で友だちとこうだった」とか、「帰りに友だちとコンビニ行ってちょっと食べ物を食べた」とか話しても、「それは楓香が障害あるから優しくされてるんだよ」とか、「そんなの友だちじゃないよ」とか言われて。だから私も「もういいわ」って思って、なんにも話さなくなりました。家ではあまり言葉を発さないようにしてた。で、高校卒業前くらいに、そのヘルパーによって私のメンタルがおかしくなっちゃって。そこで親がまずいって思ったらしく、もうそこ(の介護派遣事業所)はやめようってなって、高校卒業するぐらいに縁を切れました。
油田:それはよかったです……。
堀:そうそう、お別れするきっかけになった決定的な出来事があって。高校生のときに、私が友だちからもらった手紙を勝手に開けられて、勝手に読まれたんです。で、そのとき言われた言葉は、「私とあなた(楓香)にプライバシーはない」。
油田:えぇ……。
堀:やばいですよね?
油田:やばいですね……。
堀:すごいことを言ったなって思いました。それがきっかけで、「あ、この人とは無理だ」と思いました。その出来事も含めて、こども期の学校の付き添いの人やヘルパー経験がかなり大きくて、今後の介助者との関わり方を見直すきっかけにもなりましたし、今の私の介助者との関わり方にも影響してます。それが自分のプライバシーを守ることです。例えば、私の介助に入るときに絶対にお伝えすることとして、「お互いのことに干渉しないこと」っていうルールがあります。やっぱり長い時間介助者と一緒にいると、距離が近くなりすぎちゃって、だんだんと相手の行動に「こうしたほうがいいよ」って言いたくなるときがあると思うんですけど、それを絶対しない。そういうルールです。とはいっても、私のことに干渉してくる人はいるんですけどね。
油田:干渉してくるっていうのは、例えば?
堀:例えば介助者がカレンダーに書いてある私の予定を見てしまって、「この日、ライブに行くんだね。いいなあ」って言われることがあったんですけど、私はそれもなんだか嫌だと感じちゃうんですよね。でも、いくら言っても伝わらない人がいる。そこで、私は先手を打って、カレンダーには時間しか書かない。どこで誰と何をするかは全部頭のなかかスマホのメモに書いて、自分にしかわからないようにして、詮索されないように工夫してます。
また、逆に、こっち側も介助者に干渉しちゃうこともあると思うんです。例えば目の前で介助者が牛丼を食べてて、「あ、今日のごはんは牛丼なんだな」って思ったとして、「今日のご飯は牛丼なんだ。美味しそう」みたいに言葉に出しちゃう人もいると思うんですよね。でも、私は、自分がそういうことを言われたら嫌だから、見ないふりをして、何も言わない。そういうことも大事なのかなって思う。そこは私も介助者的な視点をもって、見てるけど見てないし、聞こえてるけど聞いてない、っていうことをやってる気がします。
油田:堀さんはけっこう、お互いの境界線を意識されてる感じなんですかね?
堀:意識してると思います。
油田:介助者との距離感はほんと悩むところですよね。距離が遠すぎるのもちょっと落ち着かないし……
堀:そう。距離を空けたまま介助に入ってもらうのも難しい。
油田:かと言って、仲良くなりすぎたらなりすぎたで、しんどいこともけっこうあるし。
堀:そうなんですよね。
油田:それに、どうしても一部の人とは、仲良くなっちゃわないですか?
堀:仲良くなっちゃいます。付き合いが長い人とか相手が積極的な人とかはどうしても。
油田:仲良くなりつつ、でもお互いに距離感を保つにはどうしたらいいんでしょうね。
堀:ねぇ、難しいです。本当に些細なことなんですけど、私は自分がテレビを見てるときに、介助者に話しかけてほしくないんですよね。そこも介助者たちには伝えていて。やっぱり、自分の時間を大事にしたい。テレビを見てるときに介助者が話しかけてきて、本当は自分の時間なのに、介助者の話になって全然集中できないってなると、「あれ、これは誰のための時間?」って思っちゃうんですよ。そこもストレスになるので、もうルールとして「私がテレビ見てるときとかは話しかけないでください」って伝えてるんですよね。
油田:なるほどー。私はルールをそこまでつくってなくて。私がテレビ見てるときしゃべりかけてくるヘルパーさん、いますね。たまにちょっとうざいなぁと思ったり(笑)。ルールにしちゃうというのも一つの手ではありますよね。
「ぶっちゃけ私は自立生活向いてない。でもやっていけてます」
堀:介助者を入れてのこの生活をやっていく以上、悩みは尽きないんだろうと思ってるんですけど、それもたまにしんどいなって思うことがあります。
油田:そうですよね、この生活が一生続くのか……みたいなね。
堀:そう、ほんとに。まじか……って。でも、私の周りには、こういう悩みを言える人もいなくて。以前、こういう悩みを同じ車いすユーザーに話したら、「そんなの当たり前だよ」「この生活は一生続くんだから」ってサラッと言われて、余計に苦しくなって、落ち込んでしまって……。わかってはいるけど、「現実はしんどいじゃん」っていう部分にただ共感してほしかった……。
油田:そんなこと言ったってどうしようもないのはわかってるけど、まずはそのしんどさを受け止めてほしいですよね。私も似たような場面に遭遇したことがあります。ある障害当事者が、介助者との関係がしんどいって勇気を出して相談したのに、それを聞いた年配の障害当事者の方は「当たり前や。そんなん言ったって、どうにもならんやろ」「甘いこと言うてたらあかん」みたいに返していて。「えー、なんで受け止めてあげないの?」と思って。なんだか、自立生活のコミュニティって、弱音を吐いたらダメみたいな空気があるなって。
堀:その空気感は私も感じます。私は弱音は吐いていいと思うし。なんか、心がムキムキの人が多く見えますよね。でも、100%心がムキムキな人はいませんし、私はムキムキじゃない。何回も「もうこの生活しんどい」って思いながらも生きてるから……。あと、私は、今の社会のなかに、障害があるとキラキラしていないといけないっていう暗黙の圧があると感じてます。でも、障害のある人って、やっぱりたくさん葛藤してると思うんです。それって、全然キラキラしてないじゃないですか。泣いてるし、怒ってるし、「もう嫌!」ってなることもあるし。そういうことがたくさんあるってことがもっと知られれば、他の障害ある人も「なんだ、それでいいのか」って思えるんじゃないかなって思うんです。キラキラしてなくていいのよ、黒くていいのよ、って。にんげんだもの。
油田:そうですよね。「いま充実してます」っていうキラキラした話じゃなくて、「いやほんと、やってられないときもあるよね」「しんどいよね」みたいな発信があることで、「あ、こう思っていいんだ」「私一人じゃないんだ」って楽になる人がいると思うんです。まさに、私自身がそういう話に救われるんですよね。
堀:わかります! 私も今までキラキラした話をよく聞くんですけど、「ほんとに?」「葛藤とかぜったいあるじゃん」「私はそこが聞きたいよ」って思ってます。いやー、ぶっちゃけ私も、ずっとこの自立生活向いてないなって思ってるんです。まず人の手を借りて生活することが苦手。人の手を借りるってことは、相手の考え方がどうしても入ってくるから、そこがたまにモヤモヤするんですよね。これを言ったら元も子もないんですけど、正直それが嫌です(笑)。
良い悪いの話ではなく、この生活をしてると、いつも自分のやりたいことをただやるために相談・意思表示しないといけないじゃないですか。私は、したいことを全部言葉にしないと実現できない。でも、自分の心のなかで留めておきたいことや、秘め事もある。自己完結できないからこそ、自己完結に憧れるし、自己完結できることを大切にしたいと思ってます。日常のなかで、どうしても介助者との会話で、言語が溢れてるので、無音の時間は私にとっては貴重な時間です。
油田:わー、ぶっちゃけたところを話してくださってありがとうございます。そんなふうに思っておられるんですね。でも、そんなふうに自立生活向いてないと思ってる堀さんが(今まで自立生活を)10年やれた——
堀:そう、ほんとに、できるから大丈夫。まぁ、大丈夫ではないんだけど(笑)。今でも生きることに精一杯だし、自分の生活だけでいっぱいいっぱいで、余裕はないです。でもそんな私でも、まぁなんとかやってるよっていう。綺麗なこととかキラキラしたことを言える障害のある人はたくさんいると思うんですけど、こういう深い部分の悩みを言える人ってなかなかないから、ひとりふたりぐらいは言ってもいいかなって(笑)。
油田:うんうん。現実はしんどいこともいろいろある。あるけど、まぁなんとかやっていけてる、そういう人がいるんだ、私だけじゃないんだってわかることが、ちょっとした希望になりますよね。
長い時間インタビューありがとうございました。最後に、読者の方にメッセージなどあれば。
堀:やっぱり生きてるとたくさん嫌なことも大変なこともあるから、それをどういうふうに自分のなかで捉えて、どういうふうに変えたり楽しくしたりするのか、そのまま悩んだりもがいたりするのかは、自分で決めること。どうしたって生きなきゃいけないから。自分の力で前に進むことしかできません。
自分がどういう生活がしたいか、どういう人間になりたいのか。
社会にはたくさん危険がある。だから、あらゆる経験をしてほしい。しんどいことも葛藤することもしてほしい。つらいときは「つらい」って言って、しんどいときは「しんどい」って言って、楽しいことがあったら笑って、自分のペースで生きていってください。
そのなかで、自分の傷を自分で手当てできるようになると、少しだけ生きることが楽になると思う。
社会のなかでは誰も守ってくれないのだから、私は自分自身が自分の一番の味方でいられたらいいなと思います。
注釈
※1 規定の保育士人数に加えて、保育士が加配される制度。障害児が園での生活を支障なく過ごせるように支援する目的ものもので、保育園か保護者からの申請によって利用できる。自治体によって配置人数に差が出てくるという問題もある。
参考 https://www.hoikunohikidashi.jp/?p=16762874
※2 登り口倫子さんのインタビュー記事(全3回)はこちら。
https://wawon.org/interview/story/1532/
※3 札幌市のパーソナルアシスタント制度については以下を参照。
https://www.city.sapporo.jp/shogaifukushi/jiritsushien/1-4_pa.html
プロフィール
1995年、北海道生まれ、北海道育ち。脳性まひの当事者|堀楓香(ほりふうか)
地域の学校に通い、2015年に大学に進学。大学進学を機に重度訪問介護を利用しての一人暮らしを始める。講演や執筆活動のほか、コメディエンヌとして活動。趣味は、音楽、映画、怪談ライブ。
文/油田優衣
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