あなたの語りには、価値がある。/ 当事者の語りプロジェクト

連載3回目

介助付き就労にむけた課題

HIDAKA MISAKI

文/岩岡美咲 : 写真/池田圭吾

SMAⅡ型(脊髄性筋萎縮症)・株式会社エバーライフ|日髙美咲(ひだかみさき)

1998年、福岡県糟屋郡粕屋町生まれ。全身の筋肉が徐々に落ちていく脊髄性筋萎縮症(SMA)のⅡ型。小中学校は普通校へ通い、高校は特別支援学校へ進学。短期大学のビジネス情報学科でビジネスマナーやパソコンの技術を学び、一般企業の株式会社エバーライフへ就職。

目次

就労中に介助をうける

油田:現在の日髙さんの介助体制や利用されている制度について教えてください。

日髙:会社内での介助は、職場介助者の委嘱助成金※に基づいて、お昼休みの1時間だけヘルパーさんが介助に来てくださって、そこでお手洗いと食事介助をしていただいています。

油田:企業によっては、介助が必要な障がいのある人を雇うことでかかるコスト、を嫌がって、それだったら介助が必要ない人を採用するという場合が大半だと思うんですが、エバーライフさんはそうではなくて日髙さんを雇ってくれたんですよね。

日髙:そうですね。入社する前から私が利用している障害者就業・生活支援センターの方とやり取りをしてくださっていたみたいです。そこでこういう制度、助成金があるということを知っていただいて申請をした感じで、私が就職した時にはその制度を利用していたように思います。

油田:エバーライフさんはすごく前向きにいろんな情報を集めてくださったんですね。これが当たり前になってほしいですよね。

日髙:そこを含めて、5月の企業内説明会から10月にお返事をいただくまでに、いろいろステップを踏んでくださっていたんじゃないかなって思います。急に雇いますとなっても、雇った後になにか困りごとがあるよりかは、前もっていろいろステップを踏んでくださっていたから今に繋がっているのかなって思っています。

油田:今はお昼休みの1時間、1日に1回の介助を入れて働かれているとのことですが、それ以外の時間に必要な介助はどんな感じでカバーされているんですか?

日髙:まず会社に着いてカバンを降ろしたりするのから、業務に就くときのトラックボールを膝に置くとか、日中の水分補給とかは周りの社員のみなさんがお声がけくださっています。

トイレに当たり前に行けないこと自体がおかしい

小暮:社員さんが「コーヒーどうですか」と勧めてくれても、トイレにはヘルパーがいる(昼休みの)時間に1回しか行けないから、飲めないとお話しされていましたよね。

日髙:私自身、コーヒーがすごく好きだから飲みたいんですけど、やっぱりコーヒーって利尿作用がすごいから、途中でお手洗に行きたくなることがありました。でも、水分を取らないわけにはいかないし、どうしようかなって思った時に、フレーバーティーも好きだったので、自宅から1日分飲む量を持って行って、「すみません。コーヒーじゃなくてこっちを注いでいただいてもいいですか」って言って飲むようにして、お手洗いはそこでクリアーというか。

小暮:これ、すっごく重要な話だなと思っていて。社員の方も飲んでほしいから、好意ですすめているわけじゃん。でも日髙さんからしたら、コーヒーを飲んじゃうと利尿作用がすごくて、トイレ行きたくなっちゃうから断ざるを得ない状況。それってけっこう苦しいというか。実際に断るのもしんどいからフレーバーティー持っていっているという話を聞いて、まず行きたいときにトイレに行けないことは人権問題になるし、加えて、人間関係の話にも関わってくるから、助成金だと使える時間が限られているところは使いづらいところだなって思います。

油田:介助がお昼間にしか行けないってなると、トイレコントロールもしなきゃいけなくなりますよね。いざという時もけっこう我慢したりとかあると思うんですけど。これがもし、常時介助者がどこかで待機してくれていたら、いつでもコーヒー飲めるんですよね……。

日髙:そうですね、たしかに。

天畠:午前と午後にそれぞれ1回、30分くらいのスポット介助を増やすのもありかもですね。もしくは、常時介助者がいたら、日髙さんはもうちょっと自由に介助を受けられる状態になるのではないかなと思いました。一方で、常時介助者をつけることについては、2つ気になることがあります。まず、会社側がそれを受け入れ、会社や他の同僚からも問題ないと思ってもらえる状況になるのか。もう1つは日髙さん的に待機してもらう形で問題ないと思うか。つまり手持ち無沙汰感があって、申し訳なくなったりするのが日髙さん的にも感じるものがあるのかとか。その辺りはどう思いますか。

日髙:私がヘルパーさんから介助を受けるのはこの企業に入ってから初めてで、それまでヘルパーが常時いてくださる状況に今までなったことがなくってあんまりわからないです。仮に、常時いていただいたとして、手持ち無沙汰感に私は申し訳なさを感じるかもしれないなぁとは思います。
今は1日6時間勤務なのですが、仮にこれが8時間勤務になった場合は、昼の一時間1回のお手洗いだけではおそらく厳しいかな。そうなると、15時か16時にもう一度来ていただくことがいいのかなぁとは思います。

嶋田:登り口さんのインタビューでも職場介助者がいつのまにか会社の業務を色々背負っちゃってた話とかあったと思うんですが、そのあたりどうでしたか?

登り口:一般企業で事務員として働いていたときも、職場が変わって相談員の仕事をしていたときも、女性職員の人が(私の介助者として)常時どこかにはいたんですけど、なかなか業務の関係ですぐに対応ができないことがあって。トイレがいつできなくなるのかそういう不安を抱えた状態で働いていた時期がほとんどだったんですよね。
トイレのことについては、ずっとしていなくても大丈夫な人もいるし、私の場合は水分を取ってトイレをしないと体温調整がなかなかできなくて困ってしまったり、膀胱炎の心配があったりするので、トイレがいつでもできるのが当たり前になってほしいなって正直思います。

私も20代の時は、私の介助のためだけの人がずっといることを頭の中で気にかけている状態が耐えられませんでした。トイレを我慢したりしていた時期もあったんですけど。でもやっぱり人間である以上、トイレはいつでもできるのが当たり前かなって思います。コーヒーとか飲み物とか、それこそデザートを食べるときもあるかもしれないけど。水分とかお腹、壊すとか壊さないとか、そういうのを前提に心配なく考えられる体制が一番いいかなって。
あと私の経験上、体がしんどくなってくるので、そこのところをもっと普通にできたらなっていうのは個人的に思っています。

日髙:インターンシップでお手洗いや体勢を整える私の介助の方法をほかの社員のみなさんに母からレクチャーしたのを思い出しました。実際就職してからも、レクチャーをしたので「お手洗い行きたいときはいつでも言ってね」って社員の方は言ってくださってはいました。まだ、一度もお願いしたことはないですけれど。

油田:実際のところ、同僚に介助を頼むとか、クラスメートに介助を頼むって、けっこう難しいことで。些細なことで、かつ、定期的でなければまだマシだけど、負担が大きいものを定期的に頼むのはお互いにとってもしんどい。介助を仕事としている人に頼めるのが、お互い対等な関係でいられる第一歩だと思うんですよね。今、日髙さんはスポット介助でなんとかうまくいっているということで、入り口としてそこはすごく大事だったのかなって思うけど、やっぱりコーヒーが飲めないっていうのは改善すべき問題だと私は思っていて……。会社にとっても介助者がいることが当たり前になって、必要な介助がちゃんと必要なだけ確保されれば、日髙さんはいつでもコーヒーを飲めるし、快適に働けるし、ちょっとお腹の調子が悪いとか、そういうときでも安心して働けるようになりますよね。

小暮:日髙さんはトイレコントロールできちゃうから当たり前になっているんだけど、実はそれは本当は良くないことで。普通の人は自由に行っているわけだから。トイレにいつでも行ける権利の保障を考えていかないといけないなと改めて思いましたね。

油田:トイレ介助が必要な障がいのある人は、いつでもトイレに行くことができない状況を小さい頃からよく経験しているから、なかには、トイレに行くタイミングを調整できるようになってしまう人もいますよね、良くも悪くも。それは一つのサバイバルの術なんだけど、そもそもトイレにいつでも行けないことがちょっとおかしいよねとか、トイレの回数を減らすために水分コントロールしないといけない現状について、もうちょっと真剣に周りの人たちも考えてほしいです。

小暮:生理中にトイレに頻繁に行けないとすごくしんどいし。そこはちゃんと考えてほしいなって思いました。

日髙:今まで生活してきて、お手洗いってやっぱ一番ネックになってくるところではありました。ただ、重要視はしているけど、自分がコントロールできているからまあいいかなって思っていたけど、やっぱりこの話を聞くとすごく気づかされて、そうだよなって思いました。自分自身もあまり気づいていなかったというか。

油田:そうじゃないとやっぱりサバイバルできなかったということですよね……。別にトイレコントロールできていることが良いとか悪いとかではないけれども、なんでそうしないといけなくなっているのかは、もうちょっと色んな人に知って欲しいと思いますね。

ひとつの事業所にしか頼れないリスク

油田:職場介助者のことについてもう少しお聞きしたいのですが、今は外部のヘルパー事業所からエバーライフさんに介助者が来ている形ですかね。

日髙:そうです。

油田:エバーライフさんに聞くべきなのかもですが、企業側としては外部の人を受け入れることも1つのハードルになりうると思うんですが、そこらへんはどうでしたか。

日髙:エバーライフ自体がどうなのかはちょっと分からないんですけど、今の雰囲気的には、そんな「情報が漏れる!」みたいなピリピリした感じは全然ないですね。

油田:企業としては情報漏洩が心配になりうると思うけど、そういうところもクリアしていって、介助者が出入りすることも当たり前になっていけばいいですよね。日髙さんはその前例を作っているのではないかと思います。

小暮:職場介助者の委嘱助成金から派遣される介助職員が、ルール上1つの事業所の特定の1人っていう決まりがあったという話をしていたと思うんだけど、それは今も変わらない感じですか?

日髙:そうですね。ずっとメインの方1人が来られていて。ただ5月ごろにいつも来られている方の息子さんが入院をされてしまって。その間2週間ぐらいは別の方が来られていました。

小暮:そもそも私たちのように、普段複数の事業所と契約をして複数のヘルパーさんが来て介助をしてもらっている視点自体を厚労省は持っていないと思います。だから1事業所に1人で事足りるって思っていると思うんですよね。それってすごく困るところだから、多分そこはこれから改善されていくんだろうなと思っていますが、やっぱりそれすら知られていないことなんだなって、ちょっと驚きました。

油田:そうなんだ。じゃあ私たちが10人以上のヘルパーさんと毎週会って生活が成り立っているとか、あるいは1人のヘルパーさんに依存することがどれだけ危ない事なのか全然知られてないという。

小暮:そうそうそう。

油田:現実的な面が共有されてないっていう問題はあるかもね。

小暮:事業所って様々な理由で突然閉鎖になったりすることもけっこうあるんですよね。そういう危険性があるということを私は日々感じているから、絶対1つの事業所だけでは危なくて。だから日髙さんの使っている介護派遣事業所がちゃんとやっていけているのは奇跡に近いことなんだよっていうこともちゃんと訴えていきたいなって思いました。

日髙:今回の2週間休まれた時に、前もって同じ事業所内の別の介助者さん数人に引き継ぎをしていただいていたので、できたなあって思っていて。もし、それ(1人しか入ってはいけないという決まり)を忠実に守って、「1人だから」と言ってずっと同じ人が来られていて、急に休まれたら、怖かったと思います。その時にお手洗いに行けないとか、急に「在宅でお願いします」とかなったときが怖いなって思います。

小暮:引継ぎとかリスクマネジメントは会社と一緒にやったのか、その事業所と日髙さんと就労支援センターが間に入ってやったのか、どういう感じで進んでいったんですか?

日髙:事業所のメインの方から「もし私が休んだ時に対応できるように数名連れてきてもいいですか」って聞かれて。会社には私から先輩に「何日にいつも来られている方と別の方が一緒に来られるみたいです」っていう感じで、上司とか上の方にまで話す感じではなくて。普通に「いいですよ」って感じでした。支援センターは全然何も知らないです。

小暮:事業所がやってくれたって感じ。

日髙:そうですね。

通勤時の介助の問題

油田:日髙さんの通勤のことについて聞かせてください。

日髙:朝は父が会社のところまで車で送ってくれて、帰りは地下鉄で自力で帰っています。最寄駅から自宅までは母の車で帰っています。

油田:通勤も介助がなかなか使いにくいところだと思うんですけど、通勤で困っていることとかはない? 大丈夫ですか?

日髙:朝は父に送ってもらっているので、今のところはありません。雨の日は今は社員の方が近くの屋根のある所まで傘を差してついてきてくださっています。あと、エレベーターのボタンも自分で押せないので、周りに居る商業施設のお客さんやインフォメーションの方に「エレベーターのボタン押してください」って声をかけて帰っています。なのでまあ、なんとかクリアはできているのかなっていう。

油田:冬とか大丈夫? 帰りは寒くない?

日髙:そうなんですよ、冬。私はいっぱい着こんでしまうと電動車いすの操作ができなくなってしまうので、けっこうみなさんにびっくりされるぐらいの薄着で。

油田:そうだよね。

日髙:見た目からしたらブラウスにベストの薄いやつを着るか。ブラウス1枚に中ヒートテック1枚着るかぐらいで。他のみなさんはコートとかダウンとか着るから、それを見られた時は「大丈夫? 本当に寒くないの?」って驚かれたりしました。でも寒さよりも、(電動の操作をするために手や指を)動かせなくなるほうが問題です。かといって手がかじかみ過ぎても電動の操作ができない。なので、会社と屋根のある商業施設がすごく近くて、寒いのは一瞬と言われれば一瞬ではあるので、そこはすごく良かったなって思います。

油田:介助が通勤にも使えていれば温かい格好をしたり、寒い時は車いす押してもらうみたいなことできるけど、今はそういうことが難しい中で、日髙さんはサバイバルされているのだと思いました。

日髙:今後1人暮らしを考えているんですけど、1人暮らしをして、父に朝送ってもらうということができなくなった時は、1番やっぱり朝の通勤が問題だなと思っています。帰りに雨が降っていた時は会社からその商業施設まで社員の方について来ていただいているけど、朝ってやっぱ通勤バラバラだし。

油田:そうですね。

日髙:そうなった時にそこが一番不安で。最近支援センターの方ともいろいろやりとりをしていて、福岡市がなんとかその助成金の制度が使えるようになるとかなんとか――。

油田:厚労省の?

日髙:あ、そうです。

嶋田:就労支援特別事業(※4)

日髙:そうです。それを4月ぐらいから「福岡どうなっていますか?」ってやり取りをしていて。そしたら8月にこういうことができると説明があって10月から施行されるらしいです。来年、1人暮らしできるようになった時のハードルが越えられそうだなって、。ちょっと嬉しくなりました。

油田:一歩一歩進んでいってるってことですよね。介助者が通勤にもつけられたら、本当に気軽にエレベーターにすっと乗れて、会社の人にもわざわざ迎えに来てもらう負い目を感じたりもしなくて良くなるだろうし、温かい格好もできますよね。ぜひ引き続き今後の動き聞かせてもらいたいです。

障がいのない人の「当然」は、障がい者の「特別」?

油田:少し話を変えまして、日髙さんの職員での人間関係のことや、どんな時に働きがいを感じるかなどを聞いていいですか。

日髙:在宅ワークとは違って実際に会社に行って働くので人間関係ってすごく大切だなって思っています。就労時間中の会話もそうだし、休み時間の会話もそうだし。そういう時がすごく楽しいです。
働きがいとしては、新しい業務を任されて、感謝された時、。「ありがとう」って言われた時は「ああ、やって良かったな」ってすごく思います。

油田:実際に毎日通う場所があって、そこで出会う人がいてというのは、すごく大事ですよね。

小暮:日髙さんのドキュメンタリーを観ていても、同期の子たちとご飯食べたりとか、社員さんがお土産のチョコレートを口に入れてくれたりしていたところがすごく印象的で。やっぱりそういうところって大事だとすごく思っていて。なんだろう……大事としか言えない。みんなは当たり前にそれを経験しているのに、なぜ私たちはそういう経験をさせてくれないのかをずっと言いたくって。だから「どう大事なのか」とか、そういう質問自体がナンセンスだと感じていて……。当たり前のようにそういう経験をさせてくれよ!って感じですよね。

日髙:小暮さんも言っていたけど、障がいのある人は在宅勤務ができればいいだろうみたいな、そういう社会の空気は、実際に会社に行って働いてる私からするととても違和感を覚えます。もし自宅でずっとパソコンと向かい合って仕事していたら、「ありがとう」って直接言われるとか、「これやっといて」みたいな簡単なそういうやりとりすらもなくなってしまうから。それだとちょっと、私、絶対嫌だなって思うから。

油田:今の話ってほんとすごい大事だなと思います。なんでわざわざ職場に行って、人間関係を大事にしたいんだと問われること、それがなぜ大事かを言わないといけないこと自体がもうおかしい。

小暮:そうそうそう。

油田:「なぜ職場に通いたいんですか?」とか、「あなたにとって人間関係はそんなに大事なんですか、なぜですか?」みたいな説明を求められること自体がやっぱりすごいおかしい。障がいのない人だったらそこは当たり前に、享受している。その大事さすらも考えなくて済むわけじゃん。だからそこらへん非対称性、障がいのある人にだけそこを問うたり、「え、なんで大事なの?」みたいなことを質問すること自体がおかしいよねっていうことに多くの人に気付いてほしい。職場での人間関係って、すべてが楽しいわけではないけど、自分の人生を豊かにしてくれる一つの要素ですよね。そこらへんの視点も今の就労政策では欠けているなって話を聞いていて思いましたね。

6時間勤務の正社員、一人暮らしにむけて

小暮:そういえば日髙さんは初任給を貰ったときはどうしたんですか。

日髙:本当は両親に何かプレゼントを渡すつもりではいたんですけど、一年経ってから渡しました。自分が渡したいものと金額が見合わなくって、気に入ったものがちょっと見つけられなくって。かといって2ヶ月目3ヶ月目の時に渡すのもなんかなあと思って、一年経ったときくらいに渡しました。

油田:初任給、嬉しかったですか?

日髙:嬉しかったです。それまでアルバイトもしたことがなくて、自分でお金を稼ぐ経験がなかったので。実際に働いて、お金を頂いて、それで好きなことに使う。その楽しさ・嬉しさを初めて感じました。

油田:働かないことは悪ではないし、働かないでも生きていけるということは前提にあるとして、やっぱり自分の能力を発揮して、それを正当に評価されて、それがお金として返ってくるのはすごい嬉しい経験だよね。障がいがある人ってアルバイトすら難しくて、そういう喜びを味わう経験もなかなかできないと思うから、自分の成果が認められるって嬉しいよね。

日髙:成果が認められたのかな。その繋がりでいくと、私は契約社員で入社をしたんですけど、今年(2021年)の4月から正社員として雇っていただいています。そこはすごく嬉しかったです。

油田:小暮さんが拍手してる(笑)。

日髙:ありがとう(笑)。

小暮:ドキュメンタリーだと契約社員で終わってたから、どうなったんだろうって気になってたんで。おめでとうございます!

日髙:もともとは一日に働く時間が8時間になった時点で正社員になる形だったんですけど、私の体力面だったり、お手洗いのこととかを踏まえると8時間は厳しかったので、そこも考慮していただいて、6時間のままで正社員にさせていただいています。

油田:へぇ~! すごいですね。8時間勤務が体力的にしんどい人は正社員にはなれないという壁も大きいと思います。そこらへんも合理的配慮として調整してくれるのは、とても先進的な事例ですね。

日髙:本当にありがたかったです。最初聞いたときはびっくりしました。

油田:今、体力の話も出たように、SMAの人って他の人と比べると体力が少なかったり、体を回復させるのに時間かかったりということがあると思うんですけど、日髙さんはどういうふうに体力を維持したり、あるいは、難しいと感じたりしますか?

日髙:学生時代に毎朝通っていたことを思えば、その時からしたらやっぱり体力は落ちているなと感じています。でも、実際に今生活をしていて、日中しんどくなることは特にないです。体力回復のために、特別何かをしているわけでもなく。ただ休日はお昼くらいまで寝ています。それでおそらく体力回復させているのかなあとは思っています。

油田:休日はけっこう体力回復に使っている感じですか?

日髙:コロナ禍前はけっこう土曜日は友達と遊びに行ったりしていたんですけど、なかなかこの状況で行けなくって。コロナ前は土曜日に遊びに行くことでリフレッシュできていたのが今はできないので、そこはけっこう辛いです。

油田:コロナ以前はリフレッシュの時間があったということですが、仕事とプライベートのバランスってどんな感じでしたか。

日髙:普通にとれていたのかな。月曜日から金曜日まで会社で働いて、土曜日は遊びに行って、日曜日は完全休養で、月曜日からまた働くみたいな感じで過ごしていました。

油田:良いですね。体力がなかなか持たなくって、無理して働いていると、休日は休むだけになるという話も聞いたことありますが、それは悲しいですよね。

日髙:元々正社員になるのは8時間勤務が条件という感じだったので、もし8時間勤務になっていたら、それは厳しかったかなって思います。6時間勤務だからこそ、今の生活リズムで過ごせているなって思います。

油田:すごい大事なことですよね。働く時間に関する合理的配慮は本当にその人の生活の質とか仕事の質にもかかわってくるだろうし。
では、最後に、日髙さんがこれからやりたいこととか、将来の展望があれば聞かせてください。

日髙:近い将来で言ったら1人暮らしをしたいなって思っています。そのための制度について私自身詳しくなくて疎いので、そういうところもちゃんと知っていきたいです。まずは1人暮らしで。
今はすごく今の会社で楽しく、充実した日々を送っています。遠い将来は障がいのある人や無い人含めて一緒に働けるような企業を作れたらいいな。まだ全然漠然としていて、具体的なイメージみたいなのは無いんですけど。実際に自分が就職活動をしてみて、就職の厳しさを改めて突きつけられたというか。そういう人はいっぱいいるだろうから、そういう人たちが働けるような企業だったり、そういう団体を作っていきたいなって思っています。

油田:実際に日髙さんご自身の経験されてきたことって絶対多くの人にとって参考になると思うし、この話自体もすごい色んな人が求めていると思います。今後の日髙さんのご活躍をとても楽しみにさせてもらってます。
じゃあ最近の日髙さんの息抜きは何ですかっていう質問で終わろうかな。

日髙:コロナ禍前は毎週のようにカラオケ行ったり、友達と遊んだりしていて、それがリフレッシュになっていました。でも最近は、カラオケにも行けないし、友達と遊びにも行けないしっていうので、。
ネットショッピングが増えた気がします。けっこう家に届きます。

小暮:わかる。

日髙:私が頼んでいるんですけど(笑)。それがリフレッシュになっているのかな。配達員の方はだいたいいつも同じ方なので、「この人めっちゃ頼むな」って絶対思われているだろうなと思います。

小暮:おー。クレジットカード?

日髙:クレジットカード。それまではコンビニで母にいれてもらう度に、「今度は何頼んだと?」と言われて、「ああ、これ頼んだ」みたいな感じでやっていたんですが、クレジットカードを作ってから、それがなくなりました。自分の好きなものを好きなタイミングで好きな量を買えるのがすごい楽しい。

油田:クレジットカードは些細なことだけど嬉しいよね、自分で選んで、プライバシーも守られて、大事なことですよね。
今日は日髙さんの話で、障がいがある人が働くために、どういうステップがお互い大事なのか、コーヒーの話とか、暖かい厚い服が着られない話は、今後障がいのある人が働く環境をもっと快適にするためのヒントがすごいいっぱいあったと思います。今日は濃密な時間をありがとうございました。

注釈

※4 福岡市 重度障がい者等就労支援事業について https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/shisetsushien/health/sevice/zyuudosyougaisyatousyuurousiennzigyou_riyousyamuke.html

プロフィール

SMAⅡ型(脊髄性筋萎縮症)・株式会社エバーライフ|日髙美咲(ひだかみさき)

1998年、福岡県糟屋郡粕屋町生まれ。全身の筋肉が徐々に落ちていく脊髄性筋萎縮症(SMA)のⅡ型。小中学校は普通校へ通い、高校は特別支援学校へ進学。短期大学のビジネス情報学科でビジネスマナーやパソコンの技術を学び、一般企業の株式会社エバーライフへ就職。趣味はカラオケで歌うこと、音楽を聴くこと、絵を描くこと。

文/岩岡美咲

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