連載3回目
セクマイ障害者はココにいる
2022年09月23日公開
Satoru Ueki
文/篠田恵・油田優衣 : 写真/其田有輝也
脳性麻痺|植木智(うえきさとる)
1985年生まれ。高校生のころから自立生活センター(CIL)と接点を持ち、大学入学と同時に自立生活をスタート。卒業後はCILで働いた。FTMトランスジェンダー※1、パンセクシュアル※2。現在は重度訪問介護を利用して一人暮らしをしながら、講演活動のほか、YouTubeチャンネル「セクマイ障害者 ウエキチCh.」※3で障害のあるセクシュアルマイノリティに関する情報を発信している。
植木さんへのご連絡はこちら≫連絡先:sekumai.uekichich@gmail.com
介助がないと生きられない障害者が、カミングアウトする難しさ
――インタビューの冒頭で、植木さんはパンセクシュアルだと伺いましたが、周囲にカミングアウトしたのは最近のことだったそうですね。
植木:(わをんから事前に送られてきたインタビューの質問事項に)「今の生活の課題はなんですか」とあって、課題何かなあと考えていたら、なんかもうこれを機にカミングアウトしようって思ったんです(笑)。
まず(介助派遣の)コーディネーターに説明して、その後に、定期的に介助に入っている人たちのLINEグループに、カミングアウトの動画を流しました。
――なんと、インタビューがきっかけに……。
植木:なかなかこう、決心がつかなかったんで。いつ言おうかなって思いながら、タイミングもわかんなくて。そもそも、そこまで言わんでもって思われるかもしれんし、自分も言わなくても良いかなと思ったり。でも、トランスを隠してたときみたいなしんどさを感じてきて。パンセクシュアルかなと2年前に思い始めてから、(自分で)認めるまで1年くらいかかって、さらにカミングアウトするまでに1年かかりました。トランスジェンダーであることをカミングアウトするまでの期間と比べると短かったですけど、やっぱり経験上これはあんまり長引かせると精神的に良くない問題だなと(わかっていたので)。
自分の中で混乱もありました。思い返せば、以前好きになった男性もいたんだけど、(性別移行する過程で)なかったことにしようみたいな。それは自分が周りから女性として見られてた頃の話で、自分は女性として男性と恋愛するのはないと思ったから、男性は(恋愛対象として)ないはずだとか。自分は異性愛者のはずだみたいな思い込みや異性愛規範があったんだろうなって思います。
自分がパンセクシュアルであるということを認めてからは、少し楽になったのですが、自分が女性以外も好きだってことを知られないようにしないとと思ってしまって。そもそも同性介護自体が異性愛前提だから、もっとややこしいことになるんじゃないかと思ったんです。
また、介助者と雑談するときに、ぽろっと言っちゃわないかなと、不安にもなり始めました。好きな俳優の写真集とか見たいけど、介助者がいる前で見たら絶対ニヤニヤするからやめておこうとか。他人からしたら、そんなの個人の自由だから気にすることじゃないとか、なんでそんなことでずっと悩んでるのみたいに思われるかもしれないけど、やっぱり言うのが怖くて。
(毎日の介助に男性が入っている中で)自分は別に介助者をそういう目では見てないけど、男性っていう属性の人も対象になってますよってことになるので、どう思われるか不安でした。
油田:カミングアウトしたら、生活の場にいる介助者から差別されたり、下手したら介助派遣を止められたりするのではないかというので、何重にも弱い立場に追い込まれるということですよね……。
植木:セクマイで介助を必要とする障害者がカミングアウトしづらいのは、そこがでかいんじゃないかなと個人的には思います。死活問題ですから。
――カミングアウトした結果、周囲の反応はどうでしたか?
植木:コーディネーターに話したら、わかったありがとうって言ってくれて。介助者への伝え方についても相談した結果、一人一人にちゃんと丁寧に説明するのはしんどいので、カミングアウトの動画を撮ってグループLINEに流す方法が自分にとっては楽かもしれないとなって、今に至るんですけど。なんかあっさり通っちゃったなぁっていう。まぁ、それだけ人間関係ができてたからなのか。「介助者変えなくて大丈夫?」とか特に確認もなかったですね。
定期的に入ってる介助者からの否定的な言動はなかったので、安心したっていうか。隠さなあかんとか、バレたらどうしようとか、そういうのがなくなったせいか、自分としては、前よりはしゃべるようになったかなーって。
油田:しゃべるようになった?
植木:別に恋愛の話をするとかじゃなくて、まあなんか、会話がちょっとだけ増えた。自分の中で余裕ができたのかなって思います。あとは好きな推しのカレンダーを部屋に置けるようになって、ちょっと幸せですね。買ったのにずっと、カバンの中にしまってたんで(笑)。
――それはかなりおっきいですよね。自分のパーソナルなスペースに好きなものを置けないって結構ストレスというか。
油田:すごい考えさせられます……。私は今、自分のことをシスジェンダー※4でヘテロセクシュアル※5と認識してるのですが、「このポスター貼ったらどう思われるか」とか考えたことなかったです。私は、好きな推しの男性のポスターを貼っても、女性のポスターを貼っても、テレビを見てニヤニヤしてても、それに関して、自分のセクシュアリティがバレる不安など考えなくて済むというか。そもそも、そういう発想自体がないというか。そこに非対称性というか、ストレートである自分の特権性を感じました。
植木:そうですね。まぁ、パンセクシュアルだとカミングアウトすることとか、カレンダーを置くとかについて、自分が気にしすぎっていうのもあるかもしれなかったんだけど……。
油田:でもそれは、全然気にしすぎなんかじゃないというか……、今のこの社会の中では、気にしすぎざるを得ないことなんじゃないかなと思います。マイノリティ属性を持っていることをカミングアウトしたときに、「気にすることじゃないよ」とか「気にしすぎ」って返す人がいるけど、その言葉はちょっと違うというか。まだ差別が根強い中で、カミングアウトするまでにどれだけのハードルがあるかとか、自分のセクシュアリティが知られた時やカミングアウトした時にどれだけのリスクがあるかとか。そういう当事者の置かれている現実が見えてないし、当事者のしんどさが矮小化される感じがします。「気にすることじゃないよ」で片付けられることではないですよね。
男性介助者への移行、振り返ってみると焦ってた?
植木:前回、介助者を女性から男性に移行していったという話をしたのですが、振り返ってみると、そのときは、けっこう焦ってたなぁって思います。結果的に自分は男性介助者を選んだだけで、それだって言ってみれば、周りの抑圧も関係してるかもしれないな、と。まぁ実際しっくりはきてた部分はあるんだけど、なんだろう、どっちかって言われたら男性?みたいな。本当は両方でも良かったのかもしれない。その時自分は早くどっちかに決めないとって思って男性を選んで、今は男性介助者と信頼関係があるから続けてるみたいな感じかなーって。
油田:どっちかに早く決めなさいというプレッシャーがあったということでしょうか。
植木:直接言われたわけじゃないけど、どっちかに決めた方がいいんだろうなみたいな。
油田:漂う空気感というか。
植木:思い出したことなんですが、移行中、女性の介助者をつけて自立生活センターの集まりに行ったときに、なんかすごく嫌だったんですよね。みんな同性が介助をしているっていう前提の中で、自分の介助者が女性ってことは、自分がいくら男性のなりをしてても、女性だと思われるんだろうかとか。あるいは、なんでこいつ(男性なのに介助者は)同性介助じゃないねんみたいに思われてないかなとか。男性介助者も女性介助者も入っているのは違反というか、なんかずるいみたいな。自分の中でも、なんか一人だけ反則してるような感覚になったり。
地方のCILとかは、人手不足で異性介助はあるけど、それを言い訳にするな!みたいなことを言ってる人もいて。なんとか工夫して同性介護を守れ!みたいな風潮の中で、なんなんお前みたいな感じに思われるんじゃないかなって昔思ってたことを思い出して。結局、(同性介護)原則である以上、例外でしかないから。
はっきり「どっちかにせんかい!」とは言われなくても、居心地悪い感じみたいなのはありました。あとは、自分の性自認※6が男だったら介助者も男っていう自分の思い込みとかもありました。まぁそれも思わされてたのかもしれないけど。
だからYouTube動画では「(介助者は)男の方がしっくりくると思って男にしました」って簡単に済ませたけど、なんかいろいろ思い出してみると、そこだけではなかったなと。
油田:社会全体に、障害者コミュニティ全体に漂う、どっちかにしなさいみたいなプレッシャーによって急き立てられてた面もあったかもしれない、トランスしたら介助者も同性がしっくりくる、というような簡単な話じゃないということですよね。
植木:今思えば、みんなでもうちょっと悩めばよかったなーって。まあ、長く悩めれば良いかと言うと、それはそれで結構しんどいんですけど。今回、パンセクシュアルであることをカミングアウトした理由の一つは、しんどかったからです。ずっと抱えてると、自分の中でそれしか考えられなくなって、精神状態が悪くなるし。そのカミングアウトも、やっぱり社会が言っていい!みたいな空気じゃないから、時間がかかるし……。
油田:カミングアウトさせず、長く悩ませる社会もおかしいし、早く自分のジェンダーアイデンティティやセクシュアルオリエンテーションを決めろみたいなプレッシャーをかけてくる社会もおかしいですよね。
植木:そう。だから、一人で悩まずに、気軽に相談できるようになったらもうちょっと生きやすいんじゃないかなあ。性別違うかもしれないとか、同性が好きかもしれないとか。そういうことを一大事を言うみたいに言わなくてもいい場所が増えてほしい。
セクマイ障害者であることによる自立生活の課題
――自立生活って、常に何かしら調整したりとか、課題があったりとか、常に進行形みたいな感じなのかなって思うのですが。今の生活、これからの生活の課題はありますか?
植木:自分はホルモン療法※7をしているんですが身体は女性なんで、婦人科系の悩みや病気を抱える可能性もあります。レディースクリニックに、トランスジェンダーの人が行きにくいっていうこと自体あるけど、自分はもっと行きにくい感じがしていて。
油田:それは介助の面でということですか?
植木:一つは、介助者が男性の場合、見た目が男性の人が2人も婦人科に来たら、なんだろうな、来てる患者さんからしたら不安っちゃ不安だろうなとか。見た目が男性だとダメですという病院もあるし。自分の場合は結局そのときだけ、女性の介助者にお願いして行きました。
二つ目は、障害者を受け入れる婦人科が少ない。いくつかの病院に行ったんですけど、(車いすに乗っている)見た目だけで診察台に乗れませんよって言われたり。
三つ目は、性器に触れるような薬を使わないといけなくなった時とかに、もし自分で使えなかった場合どうしようとか。FTMの介助者のS君が、そういう時は毎日その時間帯だけ来るわって言ってくれているけど、その人がいつまでもいてくれるとは限らないし。
あとは今は自分で体を洗ったり、トイレにいくことはできるんだけど、自分が二次障害になったり、重度になったらどういうふうにしようとかなってことがありますね。
油田:障害がある人の身体の状態って日々あるいは年単位で変わる中で、どう介助を受けるかって変わってくるし、考えていかないといけない大変さがあると思うのですが、そこにセクシュアリティの問題などが関わってくると、だれからどう介助を受けられるかみたいなことも、さらに考えないといけない項目として上がってきますよね。
植木:あと、精神障害を持ちながら自立生活を送ることも課題というか、難しいと感じています。
油田:その難しさは具体的にどういうものですか?
植木:調子によっては、思考力や判断力が落ちるので、たとえば今日の晩なにが食べたいかわからない。まったく考える気力もないけど、食べないといけない。わかりやすいのはそういう感じ。
あと、介助者を育てるのができる時とできない時があって。調子がいいときは、ちゃんと「シンクの上の棚の何番目に入ってる袋」とか言えるんですけど、調子悪いときはそういう説明もできないし、人がいるだけでしんどいときもあるし。精神(障害)だけの人は、そういう症状があったらヘルパーを断ることもあるみたいなんですけど、(自分は身体障害があるので)それもできない。
今は、調子がすごい悪かったときを知ってる介助者が半数以上いて、それこそ信頼関係があって。そういう介助者は調子悪いんだなって思ったら、なるべく静かにしてくれて、ある程度勝手にやってくれるんですけど。だけどやっぱり、いつまでもそれは続かないわけで……。
――元気な時にいろいろ調整をしておかないと、生活を作るのもなかなか大変ということですよね。調整する作業が避けられないというか。
植木:そういうプレッシャーもけっこうありますね。だから、重度(身体障害)で精神障害も持ちながら自立生活している人がいないのか、知りたいです。
YouTubeチャンネルに込めた思い
油田:2年前、植木さんがセクシュアルマイノリティ関係のイベントに登壇されていたのが、私が植木さんを知ったきっかけだったのですが、植木さんがYouTubeでそのイベントについて「ここに来れなかった当事者の人もたくさんいたんだろうな」っておっしゃっていたことが印象的で。あぁ、そうだよな……って。それこそ植木さんも大学の時とかはそういうコミュニティにそもそも行けないとか、行く上で何重にもハードルがあったということでしたよね。孤立せざるを得ない人たちがまだまだいるんだなということを考えさせられます。ほんとうに届いてほしいですよね、その人たちに情報が。
植木:そういう思いから、当時趣味で見てたYouTubeだったら結構ハードル低くなるんじゃないかなって思ってチャンネルを始めました。
油田:そもそも障害があって外に出にくい上に、介助者も必要な場合はコミュニティに行きづらいっていうことを考えると、YouTubeはアクセスしやすいツールですよね。
植木:でも、筋ジスの最重度の人とかだったら難しいですけどね……。
油田:たしかに、パソコンをセッティングしてもらえて、周りから覗かれない環境があって、指先や視線入力で操作ができる人なら……っていう感じですよね。YouTubeチャンネルなど、今の活動への思いを改めて教えてください。
植木:やっぱりロールモデルが周りにいなかったから、自分はすごいしんどい思いをしました。だから精神障害になったというのは短絡的だし、もちろん自分の認知の歪みみたいなのもあったんだけど。でもやっぱりセクマイの障害者とつながりたかった。
まあ今は楽しく、精神的な症状とかしんどいことはあるんだけど、前より友達もいっぱいいるし、介助者とも家族ともまあまあうまくいってるから、少なくとも20年前(性別の違和感に)気づいたときと比べたら想像もつかない生活をしています。
でも、それは本当に運がよかっただけだから、自分と同じように苦しんでいる人がどこかにいると思うと、何かしたい。やっぱり(セクマイの障害当事者が)楽しんで生きてる、たぶんそれが自分が見たかった、けど見えなかった姿だから、それを発信したい。出来る範囲でやっていきたいし、コロナが明けたら講演とかもやって、一人でも多くの人に自分たちの存在を気づいてほしいです。
――YouTubeチャンネルへの反響はどうですか?
植木:つくったときは本当に意味あるのかな?と思ったけど、やってみたら、当事者が何人か連絡くれたりしました。
自分は、幸せになりたいっていう思いが希薄っていうか、なれるはずがないって思って生きてきて、まだそういう気持ちは自分の中に残ってますが、セクマイの障害者がいて当たり前だし、セクマイとか関係なく、自由に生きれるような社会になったらいいなって思います。
正直まだ介助を使っているLGBTQが少ない中でやっていくのはしんどい部分はあるんだけど、願わくはもっと理解……理解っていうか、そういう知識や認識が当たり前になって、一線を早く退きたいっていうか(笑)、こんなYouTubeチャンネルいらんっていう状況に早くなってほしいなって。
――YouTubeチャンネルのサブタイトルは、「セクマイ障害者はココにいる」。今伝えたいことが凝縮されている、とても力のある言葉だなと思いました。
植木:ずっと「どこにいるの?」って思っていたので……。
これからYouTubeチャンネルは、みんなで作っていけたらいいなと思っています。もっといろんな障害やいろんなセクシュアリティの人が話してくれたら嬉しいし、障害当事者じゃなくても、周辺の人と対談したりとか。
あと現実問題として、今は介助を使いながらとはいえ、全部一人でやっているので、テロップ入れとかサムネイル作りとか、いっぱいいっぱいです。何人かで得意分野を生かしあいながら運営するチャンネルになったらいいなって思ってます。
一緒にチャンネルで情報発信する人、障害の有無、セクシュアリティ関係なく募集してます!
注釈
※1 トランスジェンダーとは、生まれた時に割り当てられた性別と性自認が異なる人を指す言葉。FTMトランスジェンダーは、出生時に割り当てられた性別が女性だったトランスジェンダー男性のことを指す言葉(「LGBTQ 報道ガイドライン—多様な性のあり方の視点から—」第2版))。
※2 性的指向が性別にとらわれない人。全性愛者(同上)。
※3 https://www.youtube.com/channel/UCTWAzAs3avHz6pITjf-CI4Q
※4 出生時に割り当てられた性別に違和感がなく性自認と一致し、それに沿って生きる人(同上)。
※5 性的指向が異性に向く人。異性愛者(同上)。
※6 自分の性別をどう認識しているか(同上)。
※7 植木さんはインタビュー後、ホルモン療法をやめた。https://www.youtube.com/watch?v=Iru1f6ByA74
プロフィール
脳性麻痺|植木智(うえきさとる)
1985年生まれ。高校生のころから自立生活センター(CIL)と接点を持ち、大学入学と同時に自立生活をスタート。卒業後はCILで働いた。FTMトランスジェンダー※1、パンセクシュアル※2。現在は重度訪問介護を利用して一人暮らしをしながら、講演活動のほか、YouTubeチャンネル「セクマイ障害者 ウエキチCh.」※3で障害のあるセクシュアルマイノリティに関する情報を発信している。
植木さんへのご連絡はこちら≫連絡先:sekumai.uekichich@gmail.com
文/篠田恵・油田優衣
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