働くカタチの多様性。Orihimeパイロットで繋がる職場仲間とのコミュニケーションがモチベーションになる
Profile
SMA(脊髄性筋萎縮症Ⅰ型)・飯塚市在住|中島寧音(なかしまねね)Nene Nakashima。2002年生まれ。福岡県飯塚市出身。生後11ヶ月で脊髄性筋萎縮症(SMA)と診断される。小学校は地域の公立学校へ通い、中学・高校は直方特別支援学校へ通う。現在、筑紫女学園大学に在籍し社会福祉士を目指して学ぶかたわら、分身ロボットカフェ DAWN(ドーン) ver.βで公認OriHimeパイロットとして働いている。
イントロダクション
中島さんは生後11ヵ月で脊髄性筋萎縮症(SMA)と診断されました。中学校から特別支援学校へ通い、先生方との出会いからiPad操作による勉強方法を確立されたそうです。現在は、大学に通い社会福祉士を目指して学ぶかたわら、分身ロボットカフェ DAWN(ドーン) ver.βで公認OriHimeパイロットとしてアルバイトをされています。
今回のインタビューは、公認OriHimeパイロットとしてはたらく中島さんに、同じ福岡県で就労支援事業を利用して一般企業でアルバイトをしている理事の岩岡美咲がお話を伺いました。OriHime同士でパイロットの方と話をする機会や、現地スタッフと雑談をする時間が、そこに実際に自分がいるような感覚になって、働くモチベーションにもつながることを聞かせて頂きました。
目次
直感的にやってみたいと思った気持ちを行動に移す
分身ロボットカフェOrihimeを最初に聞いたときはどういうイメージでしたか?たとえば私もすぐに働けそうだなと思ったのか、それとも不安が先に来て二の足を踏んでしまったなど、いかがでしたか。
中島:Orihimeを操作する人のことをパイロットっていうんですが、そのパイロットの募集があることを担任の先生から聞いて、そこではじめてOrihimeを知りました。話を聞いて私でも出来ることがあるならやってみたいなと、そのときは直感的にやってみたいと思って応募しました。
もともと人前で話すことが苦手だったので、面接を受けて採用されて実際に働くとなったときは、お客様や一緒に働く方たちとお話しできるか不安も感じていました。
なるほど。そのやってみたいという気持ち、飛び込んでみる気持ちがいかに大事かという事ですよね。それを聞いたときご両親はなにかおっしゃられていました?
中島:パイロットに応募する段階では母にだけ話していたんですが、「そういった例もあるんだね」って、やりたいことは応援するよ、っていう感じでした。父には1次審査に通過したときぐらいに話したと思うんですけど、私を応援してくれているように感じました。
お父さんには1次審査通過した後に伝えたっていうのが戦略的な感じがしていいですね。先生がOrihimeを紹介してくれて、まずはやってみようってチャレンジする気持ちや、一歩踏み出す勇気は寧音さんの行動力だなぁと思いました。
顔が見えない分、人とのコミュニケーションが大切 パイロット同士の交流も頑張る力に
そのうえで、人生初バイトというか初仕事というところで不安もありながら、ご自宅からパイロットとして働いた初日の事を覚えていますか。
中島:初日はテレビ取材があって、自宅に取材の方とカメラマンも来られていてすごく緊張しまくりの日でした。撮っていただいた映像を見返すと、すごくぎこちないような気がして、その映像を見返すとその時の緊張感を今でも思い出します。
初めはなかなか自分からお客様に話かけることが出来ずにへこむこともありました。でもだんだん回数を重ねていったり、他のパイロットの方と休憩時間に話あったりして、そんなことが応援してくれていると感じてもっと頑張ろうという気持ちになりました。それからお客様と話すこともどんどん楽しくなりました。
それは緊張しますね。パイロットの最大の仕事ってコミュニケーションなのかなって聞いてて思いました。僕も実際、分身ロボットカフェ行ったんですよ。注文受けて、お話したんですけど、あのカフェに来る人ってご飯も結構おいしいんですけど、それ以上にお話しするのを楽しみにしている人が多いし、パイロットが話を聞くこともすごい価値を生む仕事なのかなぁと思いました。その辺りどういうふうに思いますか。
中島:私もパイロットとして働くうえで、顔が見えない分、人とのコミュニケーションが大切だと感じました。そこでお話をすることでお客様も喜んでいただけたときは嬉しくて、それが私自身の楽しさや、やりがいにもつながると思いました。
職場の存在についてはどのように考えますか?
中島:一緒に働く方々ともコミュニケーションをとったのですが、本当に自分がその場に、職場にいるような感じがして、安らげるというふうに感じました。やっぱり、一緒に働いている方々とのコミュニケーションが重要だと思います。
パイロットは家から直接つながる分、孤独感を感じたりしないのかなと思っていましたが、働くことの醍醐味って、職場の雰囲気や働く仲間とのつながりもあると思います。これって健常者の人はみんな感じているのかというと実はそうじゃなくて、テレワークが進んでいる状況だと同期とチャットの会話しかなくて、仕事のモチベーション下がっている人もたくさんいるよく聴きます。障がい者だから、健常者だからというわけじゃないんですけど、そのあたりどうですか?
中島:普段Orihime同士でパイロットの方とお話をする機会もあったり、現地スタッフの方とも時間があるときは雑談をしたりするので、そこに実際に私がいるような感覚になって、働くモチベーションにもつながると感じています。
オリィさん、よく考えてらっしゃいますね。
店員にもお客さんにもなれるOrihimeロボット
寧音さんが職場の人とも交流ができてつながれている形が良いなって聞いていて思いました。私も今、在宅ワークをしていますが家で1人でする作業って淡々となります。バイトは貴重な経験ではあるんですけど、本当は職場に行ってできると良いなと感じたりもします。今、寧音さんは大学に通われながら、Orihimeのバイトを継続されているんですか?
中島:はい。夏休み中は平日も働けるんですが、大学がある時は、主に土日に働くのを継続しています。大学の講義がないときは土日に1、2時間ほどで、夏休み期間中などは平日も組めて、週に5日の1、2時間程度働いています。
カフェのテーブルに1台ずつOrihimeが置いてあるのですが、そこでお客様と話をしたり、メニューの紹介をしたりしています。ほかには、大きなOrihimeロボットを操作して飲み物を運んだりもしています。
私(岩岡)もわをん事務局の方がカフェに行ったときに、自宅からOrihimeを操作して、周りを見渡したり、カフェの中を見たりすることができました。
中島:そうだったんですね。
現地に行くって難しいですけど、みんなとお茶している気分、なんか覗いている気分でしたけど(笑)Orihimeの操作は凄く楽しかったです。ああいうロボット、私も職場に置いてもらいたいなあと思いました。
操作できるっていうのがいいですよね。パイロットという意味でちょっとこう横向いたりとか。なんならスパイ機能みたいな感じで、集音機能高めてひそひそ話とか聞けたら凄い良いなと思いますけど。社長の会話みたいな感じで...怒られるか(笑)その場にいる感覚はOrihimeを通じて感じることができたので、もっと現場に広まっていって欲しいなと思いました。
わをんの当事者の語りプロジェクトでインタビューをした梶山さん(※4)という方が、今ドローンのパイロットになるべく、色々動いてらっしゃいますけど、ドローンパイロットとして空を飛ぶっていうことも、今後の開発次第でできそうですよね。
中島:そうですね。空も飛んでみたいです。
面白そうですね。寧音さんがアルバイトしてる時間の介助は、どなたがされているんですか?
中島:私は母に。Orihimeの操作はパソコンでしているんですが、そのパソコンのセッティングをしてもらいます。仕事中にほかの仕事仲間とつながってチャットやSlackでやりとりをしています。Orihimeを操作しながら文字を打つのは難しいので、そのときだけ母にお願いして文章を入力しています。
お母様のサポートもありながらアルバイトをされている時間、こういう介助やサポートがあればいいのになって思うことはありますか?
中島:今はわからないです。今ずっとできることではないので、そのうち仕事中のヘルパーさんの支援が認められればもっと働きやすくなると感じています。
飯塚市は就労支援事業が取り入れられていないんですか?
中島:そうですね。
これからの課題になりますね。
全国どこでも1人暮らし・通学・仕事の介助が受けられる制度を
今後の話をもう少し伺いたいです。今、大学2年生で、まだ遊んでいたいとか勉強したいとかあると思うんですけど、大学卒業後の将来のことはどういった生活をしたいと考えてらっしゃいますか?
中島:1人暮らしをしたいと思っています。まだ具体的な細かいことは決まっていないのですが、飯塚市で1人暮らしをするというのは今の段階では現実的に厳しいと感じています。卒業後の就労に関しては社会福祉士をとりたいと思っています。
私(岩岡)は卒業後のことが全然想像できなくて自分に何ができるんだろうと漠然としていました。寧音さんが社会福祉士になるのを目標に進んでいる中で、卒業後の通勤、就労の支援やサポートが充実していけばいいなと思います。寧音さんが働くことやその後の1人暮らしを目指している中で、こういうサポートがあったらいいなって考えていることはありますか?
中島:やはり基礎時間、例えば週5日9時から働くことが、私の体力的に続けると体調を崩してしまうと思います。こういった制限がなく働けるような場所を見つけることが難しいので、そういった職場のサポートもあるとありがたいなと感じています。
それから大学内の面も全国的にはなくてそこの支援も限られているので、そういったサポートがどの地域にあるか、そういった情報を提供して頂けるようなこともあるといいなと感じています。やはり一番は全国どこでもヘルパーさんを利用して大学や仕事中も介助を受ける制度がいつかどこでもあるといいなと思っています。
1人暮らしもされてみたいということですものね。1人暮らしして、重度訪問介護を利用する。そして介助付き就労の経験を積み重ねていくこと自体が、後々社会福祉士として他の当事者から相談を受けるときの大きな武器になるのではと思いました。壁にぶつかって苦しんだ経験があるかないかって相談を受ける時って本当に違う、どれくらい寄り添えるかの差になってくると思うので、生活する事自体が経験になるんだろうなと思いました。インタビューありがとうございました。
※4 梶山さん記事 https://wawon.org/interview/categorize/%e6%a2%b6%e5%b1%b1%e7%b4%98%e5%b9%b3/