教えて!藤岡弁護士
なぜ重度訪問介護は就労時に使えないの?

藤岡弁護士の写真

日常的に介助が必要な障がい者の多くは、
重度訪問介護を通勤・勤務中にも使えるよう求めてきましたが、
実現していません。

どうしてそんな仕組みになっているの?
そんな疑問を抱いたリス記者が、
藤岡毅弁護士にインタビューしました!

Profile

藤岡 毅

1962 年生まれ。「介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット(介護保障ネット)」の共同代表、障害者自立支援法違憲訴訟全国弁護団事務局長、東京弁護士会高齢者・障害者の権利に関する特別委員会福祉制度部会長を務める。

リス記者

憲法27条には『すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ』とあるのに、仕事時に重度訪問介護(以下、重訪)を使えないのは、憲法違反のように思うのですが……?

まず、障がい者に関する法律を確認してみましょう。
1つ目が、障害者基本法 (※1)
3条に「全て障害者は、経済分野の活動に参加する機会が確保されること」とあります。

藤岡弁護士

2つ目が、障害者総合支援法 (※2)
障がい者福祉サービスは「障害者基本法の基本的な理念にのっとり」行う、と書いてあります。つまり、重訪の仕事利用を積極的に認めていると解釈できるんです。

藤岡弁護士

※1 障がい者の自立、社会参加の基本理念を定める法律。
※2 重度訪問介護などさまざまな福祉サービスについて定める法律。

リス記者

でも実際は、仕事中に重訪は使えません。厚労省や自治体は適切に運用してると言えるんでしょうか……?

誤った法解釈と言えるでしょうね。労働基本権を守っていないし、障害者雇用促進法や障害者差別解消法にも違反すると思います。

藤岡弁護士

憲法のもとつくられた法律への違反なので、重訪が仕事に使えない運用は、憲法の趣旨に反している、と言えるでしょう。

藤岡弁護士

リス記者

なるほど……! そういう国の姿勢に対して、障害者自立支援法違憲訴訟団は毎年のように重訪を仕事に使えるよう求めているんですよね。返事はどうですか?

政府は、2006年の厚労省告示第523号を根拠に重訪は仕事中には支給しないと言っています(※3。)でも、この論理はちょっとおかしい。

藤岡弁護士

※3 木村英子参議院議員の質問主意書(2019年)に対する当時の安倍晋三総理の答弁概要より。

重訪を受けるのは、憲法に定められた生存権にもとづく権利です。その人権を制限するには、明確な法的根拠がなきゃいけないんです。

藤岡弁護士

リス記者

告示第523号は、その明確な法的根拠になりますか?

ならないと思います。告示第523号は、行政がヘルパー派遣事業所の報酬単位数を定める基準にすぎないからです。

藤岡弁護士

リス記者

そうなんですね……!(驚)

それから厚労省は、重訪の仕事利用ができない論拠の一つに「障害者差別解消法で合理的配慮は民間事業所の義務となっている」ことを挙げました(※4)

藤岡弁護士

でも障がい者のヘルパーは法律で要資格と決められた職ですよね。企業に用意させるのは、合理的配慮を超える過重な負担でしょう。国の論拠は説得力がないですね。

藤岡弁護士

リス記者

2021年の国会でも、重訪は「経済活動に対する支援は対象としていない」と厚労省は言っていました。

※4 2022年1月11日障害者自立支援法違憲訴訟団と厚労省の第12 回定期協議より。

リス記者

なんだか、障がい者が公費の福祉サービスを利用してお金を稼ぐのをタブー視しているように思えます。

本来なら、タブー視することじゃないと思います。仕事中の介助は障がい者の心身を援助しているだけ。営利企業の事業自体は手助けしてないですよね。

藤岡弁護士

リス記者

そうですよね……。2年前に新しく就労支援特別事業 (※5)ができましたが、使える自治体はほんの少しです(※6)。住む場所によって、障がい者の間に差が生まれてしまいます。

今の制度設計では、自治体にも財源負担があり、それでもやるかどうかの判断が、自治体に委ねられているからですよね。

藤岡弁護士

リス記者

はい。
前からある職場介助者への助成金も同じように、申請するかどうかの判断は企業に委ねられています。

だからどちらも使われにくい。今のままだと、障がい者は自治体や企業に「どうにか働かせてください」とお願いベースしかないですよね。

藤岡弁護士

リス記者

障がい者の立場は、かなり弱いですよね。

重訪の仕事利用ができるようになれば、企業側は負担がないので、採用しやすくなります。

藤岡弁護士

重訪を仕事利用できる、シンプルな仕組みに変えていくべきでしょう。

藤岡弁護士

※5 通勤・勤務中の介助費の大半を国と自治体が負担する。
※6 厚労省によると、2021 年時点で約1700 ある全自治体のうち 16 自治体が導入(2022 年2 月16 日付朝日新聞)

まとめ

今ある障がい者の仕事に関する政策は、利用が企業や自治体の判断に委ねられています。でも藤岡弁護士が話すように、介助は生命維持に必要なもの。仕事中も保障されるべき権利と言えます。この考え方をもとに制度を運用すれば、わたしたちの「はたらく」選択は実現するんじゃないかと感じました。

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