サポートを受けながら主体的に生活するって、
具体的にどんなもの? ~直方特別支援学校進路学習~

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日常生活に介助が必要な障がい者が地域で生活していくためには、仕事ももちろん大事ですが、まずは福祉制度のヘルパーをはじめとするサポートを受けながらの生活を組み立てることが重要です。そしてその中では、自分が主体になれるよう、いろいろな工夫が必要です。

一般社団法人わをんは、2022年9月の大阪府立刀根山支援学校(豊中市)に続き、同年12月13日に直方特別支援学校をはじめとする福岡県内の特別支援学校3校が参加するオンライン・ワークショップ、また翌14日には同じく福岡県内の特別支援学校の教員、保護者向けのオンライン・ワークショップを開き、サポートを受けながら主体的に生活すること、の具体像をお伝えしました。

目次

  1. 助けがあれば自由に行動できる
  2. 今も不安、心配はあるけれど、ゲームをクリアするみたいな感覚
  3. 「声に出す」「知ってもらう」「やってみる」
  4. 自分がヘルパーの支えになることがストレス発散
  5. 「自分のやってみたいことを言えるようになりたい」
  6. 多くのヘルパーを利用するからこそ大事な「一人で過ごす・考える・何も考えない時間」
  7. 子どもの進路選択には、「親の人生設計」の視点も大事

助けがあれば自由に行動できる

エピソード紹介。料理ができるようになったよ!ずっと料理に興味はあったものの、なかなか親と一緒にしづらく…。ヘルパーさんとやってみたら、失敗してもとことんつきあってくれるし、電子レンジに寄り添ってくれて料理ができるようになりました。
料理ができるようになったエピソードを紹介

まずは、小暮理佳さんから「できなかったことが できるようになったよ シリーズ」のタイトルで、ヘルパー制度(重度訪問介護)を利用することで、パーマ、料理、自由な外出など、たくさんのことが出来るようになったと紹介しました。小暮さんは平日の日中に「重度訪問介護」という国のヘルパー制度を利用しています。

ヘルパーは、ただ身体介助をするだけの存在ではありません。たとえば小暮さんは家族が決めた美容院にずっと通っていたけれど、パーマをあててみたかったので、ヘルパーに相談したところ、一緒にネットで検索、先方への相談をして、「選択を応援」してくれました。美容院では、人口呼吸器を着けたままでもパーマを当てる方法を、美容師とヘルパーが協力して考えてくれます。

また実家暮らしの小暮さんは、ずっと家で料理したかったけれど、なかなかできなかったと言います。「親(と一緒にやる場合)だと失敗したら『後片付けが面倒くさい』と小言を言われるなどなど、言葉を選ばずに言えば「うるせえな」となることが多い(笑)けれど、ヘルパーなら失敗しても付き合ってくれる」のです。

友人との外出がしやすいのも、重度訪問介護のヘルパーならではのポイントです。たとえば「居宅介護のガイドを頼むのは、1か月くらい前にお願いしないといけない」けれど、用途によってヘルパー滞在時間がぶつ切れにならない重度訪問介護なら、友達との予定も合わせやすいと言います。

また家族介助の場合は、家族の都合が合わないとライブなど日にちが固定のイベントに行けないけれど、ヘルパーとなら行きやすくなります。「歩けない、人工呼吸器をしているのが悪いのでなくて、助けがあれば自由に行動できるということを、重度訪問介護を使うようになって知りました」。

今も不安、心配はあるけれど、ゲームをクリアするみたいな感覚

生徒さんたちとの質疑応答では、小暮さんのいろいろな挑戦に不安はなかったのか、という質問が多く出ました。小暮さんも、中学生の時に初めてヘルパー(居宅介護)を頼んだ時には「緊張して、30分間しゃべるだけで終わってしまった」そうです。「それまで父母にやってもらっていたので、ヘルパーに頼むのが怖いというか、慣れなかった。

でもヘルパーさんが一生懸命介助を覚えたり、改善してくれたりして、徐々にヘルパーと信頼関係を築けるようになってからは言いたいことが言えるようになったし、ヘルパーとならできるかもということも増えた。今も心配なことはあるけど、それぞれゲームをクリアするみたいな感覚で解決しています」(同)

「声に出す」「知ってもらう」「やってみる」

大学進学したらからできた経験/「健常者との関り。」「障害者スポーツ。」「みんなに私を知ってもらう。」「卒論『重度障害者を排除する構造』~健常者はなぜ重度障害者ではなく介助者に声をかけるのか~」「先生と講演」
大学進学したらからできた経験(画像をクリックすると拡大します)

次に岩岡美咲さんからは、「わたしが進学を決めた理由」と題して、大学進学や就職を通して学んだ「障がいがあるからとか関係なく、やりたいことをやるために声を出す」ことの大切さを紹介しました。

岩岡さんは高校2年生のときに、器械体操の大会で競技中に頚髄損傷し、首から下が動かなくなりました。現在は人口呼吸器をつけています。ケガをした後、高校卒業はできたけれど、「障がいを持って何もできなくなって、進学という選択肢がないと思い込んでいた」と言います。しかし、オープンキャンパスになにげなく参加し、そこで会った教授の勧めをきっかけに受験に挑戦、合格し大学に通ったことで、健常者との交流、障害者スポーツ、論文執筆など経験の幅がとても広がりました。

通学にあたり岩岡さんが重視したのは「お母さんじゃなくてヘルパーさんと通いたい!」という当然のこと。当初はそれをかなえる制度がありませんでしたが、岩岡さんの入学をきっかけに、「重度障害者大学等進学支援事業」という厚労省のモデル事業を地元自治体が行い、サポート体制が出来上がりました。

「どんどん声に出して、仲間がサポートしてくれる環境を作る」ことは、仕事に就くときも同じでした。岩岡さんは現在、不動産賃貸の会社で週3回3、4時間、在宅勤務のアルバイトをしています。この会社で働き始めたきっかけは、一人暮らしの物件探しを依頼した不動産賃貸会社の社長との雑談中に言ってみた、「履歴書出していいですか?」のひとことだったそう。

当初は重度身体障がい者が就労中にヘルパーを使える制度はありませんでしたが、岩岡さんの働きかけにより、「重度障害者等就労支援特別事業」という国の制度を地元自治体が導入。アルバイトが始まるまでには、仕事中にヘルパーを使える環境が整いました。

自分がヘルパーの支えになることがストレス発散

大学進学や企業でのアルバイトなど精力的に取り組んできた岩岡さんですが、もちろん常に前進しているわけではありません。質疑応答では、「けがをして退院後、自宅に帰ってきてからは私はすることがないのに、同世代の友達は遊んだり大学に行ったりしていて、落ち込んだ時期があった。

けがをしなきゃ良かったなと思うことは今でもある。そういうことを考えたり、考えなかったりしながら毎日過ごしている」と、実際のところをお伝えしました。

今でも落ち込んだ時には、「信頼するヘルパーに愚痴を言うこともある一方で、自分がヘルパーの支えになろうとすること自体が、ストレス発散になる」といいます。岩岡さんは一人暮らしを始めて1年目。「たくさんのヘルパーに支えられて、これから生活してくぞという覚悟を持っていきたいなと思っています」。

「自分のやってみたいことを言えるようになりたい」

小暮さん、岩岡さんの話を受けて、生徒さんたちの感想からは、「私も、いろいろなことをあきらめずにやってみようという気持ちをもって、しっかり伝えることを意識したい」「周りの人やデイの人に、積極的に自分のやってみたいことを言えるようになりたい」など、ワークショップ後に「やってみたいことを周囲に伝えることの大事さ」が伝わった様子がうかがえました。

また先生方からも呼応するように、「病気や障がいがあっても、意思をもった一人の人間であるということ。生活の主体は本人だ、ということが忘れられがちではないか。親や教師、介助者はみな、良かれと思って、先回りした支援をしたり、助言をしたり、環境を整えたりしているが、果たしてそれは、本人が望んでいることなのだろうか?ということを、お二人のお話を聞いて、めちゃくちゃ考えた。

自己選択、自己決定というが、用意された選択肢は、大人にとって都合のよいものになってはいないだろうか」「この学習会が終わったあとに、参加していた生徒に、『将来、自由にお出かけしたり食事に行ったり、いろんな体験をしたりできるなら何をしたい?』とたずねると、『今まで、そんなこと考えたことなかった』と答えていた。考えたこともなかったということに気づかせていただいたこと、すごいなと思う」といったコメントがありました。

多くのヘルパーを利用するからこそ大事な「一人で過ごす・考える・何も考えない時間」

わたしが生活で大切にしていること/・いつ何をきめるかは自分で決める ・一人で過ごす、考える、何も考えない時間を作る ・何を食べたいかを自分で決める ・ヘルパーさんが交代しても生活を変えない
わたしが生活で大切にしていること(画像をクリックすると拡大します)

12月14日には保護者向けに、一人暮らし歴16年、相談支援員経験のある登り口倫子さんが「人生一度きり!障害があっても「わたし」のままで生きていく?本人に必要な「ものさし」を基準に、進路を考える~」と題してオンライン・ワークショップを行いました。

まず、自分の人生・生活を広く考えるにあたっての「ものさし」の参考として、登り口さんが公的なヘルパー制度を使って一人暮らしをするうえで大切にしている4つを紹介しました。「いつ、何をするかは自分で決める」「一人で過ごす・考える・何も考えない時間を作る」「何を食べたいかを自分で決める」「ヘルパーさんが交代しても生活は変えない」です。

この中でもっとも大切にしているのは、「一人で過ごす・考える・何も考えない時間を作る」だと言います。障がいが重く、介助の必要性が高いほど、ヘルパーが来る頻度、人数ともに多くなります。

それぞれのヘルパーとの関係づくりに時間を割いているうちに、自分の本当の気持ちを考え直す時間がなくなり、感情がコントロールできなくなったり、本当はやりたいことが見えなくなったりしてしまう。そこで、ヘルパーは隣室に待機してもらい、一人になったり、本を読んだりする時間を大切にしていると言います。

子どもの進路選択には、「親の人生設計」の視点も大事

進路を考えるうえで必要な「ものさし」/・お金・時間・人生設計・本人が望こと、のぞまないこと
進路を考えるうえで必要な「ものさし」(画像をクリックすると拡大します)

中高生の進路を考えるにあたっての「ものさし」のうち、忘れてはいけないのが「親の人生設計」の視点です。登り口さんは大学生のときに一人暮らしを始めるまで、母親が介助の中心でした。「母親の目線、時間、体力のすべてが自分に割かれたのはありがたかった。

でも窮屈で申し訳なかった。親には親の人生を歩んでほしいと思っていた」と言います。子どもが自立するにあたって、親が自分自身の人生設計を持っていれば、子どもは親の視線を気にすることなく「心がオープンになっていきます」。

最後に、「ものさし」の設定、進路選択、その進路実現に向けた活動の、どの段階でも必要なものとして、「セルフアドボカシー」を紹介しました。セルフアドボカシーとは、「自分が何を望んでいるのか、そのためにどんなサポートが必要かを表明する」ことです。自分の人生の主人公として自信を持ち、周囲の人や社会のあり方に振り回されずに生きていくためには、非常に重要な考え方です。

登り口さんがセルフアドボカシーの例として挙げたのは、「トイレに行くたびに介助者に嫌な顔をされたくない。生理現象だから」「大人の顔色を窺って自分のやりたいことをあきらめたくない」。毎日の生活で起きる小さなことから、人生に関わる大きなことまで、どんな場面でも伝えることが大事です。

参加した保護者からの感想では、「障がいのある子どもたちが、親を気遣ってくれていたこと、親や大人ができないことを、障がいのある子どもたちの方がたくさんできることがあるな、と感じた。

一緒に声をあげて、もっともっと生活が楽しくなる社会にしていきたい」「学生時代に、もっと友達と出かけたり、大人抜きで話をしたりしたかったという思いを聞いて、ハッとさせられた。自分が普段、どのくらい本人の意向を聞けて生活できているだろうかと振り返り、反省する機会になった。おっしゃっていたように、「自分(本人)を主体に」という部分に信念をおいておけばブレないのかな、と気づけた」とメッセージを受け止めていただきました。

社会に物申す!